人外CP
ハーツェxサン
未着の頃、兎
仕事から戻ってくるとロビーでハーツが何人にも取り囲まれて談笑しているのがチラリと見えた。いや、チラリとしか見えなかった。取り囲むヤツ等のせいもあったし、何処かもやもやする気持ちのせいだ。ハーツは俺に気付いただろうに、俺の方に眼も向けなかった。あんな時のアイツはキラキラして見えた。仕事をしている時のアイツもそう。アイツの周りが輝いて見える。アイツが輝いて見える。あの時の笑顔と俺に向ける笑顔は違う。眩しいアイツには近付けない。俺には明る過ぎる。
部屋に戻って刀の手入れをし終わり、風呂に入って眠ろうかと思って立ち上がるとノックが聞こえた。そんなに疲れる仕事だと感じなかったが、何故か精神的に疲労していた。もう眠ってしまいたかったのに、と思いながら扉に向かう。チェーンを掛けたまま扉を開くと、紺色の毛に覆われた兎耳が見えた。
「ザン、入れてよ」
にっこり笑う彼に少し驚いた。さっき迄ロビーで話していたのに。あの人等は放って来たのだろうか。扉を一度閉めてチェーンを外し、再び開ける。見上げるとハーツは少し首を傾げて、ああと言った。
「あんなの暇潰しだし、オレはザンが一番大切だから。あの時オレがザンに手を振ったりしたら、後でザンが困るでしょ。色々聞かれたり噂されたり」
寂しくさせてごめんね、と続ける。何も言っていないのに、ハーツは俺の思いを察してくれる。ずるい、とも思うけれど。
「疲れていたみたいだから、様子を見に」
優しさは苦手だ、どうして良いか解らない。そう言ったらハーツは押し付けだから気にしないで良いと言った。あんまり気にすると優しさにつけこむよ、と脅された。こんな風に接してくるヤツは初めてで、どうして良いか解らない。
「ああ、制服に血が付いてる。怪我した?」
でも、撫でられるのも触れられるのも嫌じゃなくて、寧ろ落ち着く。無言で首を振ると、本当にと聞かれて頷いた。一度、嘘を吐いて誤魔化したら着替えている時に見付かって、それ以来何度も確認されるようになった。ジャケットを取られて、自然に脱がされる。何時も、慣れているなと思い何故か寂しくなる。俺には向けない笑顔も寂しくなる。
「クリーニング、出さないとね」
一度、腕の中に包み込まれる。大きく息をすると身体から力が抜けた。
「ハーツの匂いがする」
独り言のようなその言葉にハーツェは一瞬眼を開き動作を止めるが、苦笑して優しく背を叩く。
「お風呂入るんでしょ、ほら」
追いたてられて浴室に行く。でも、帰ってきた時のあの疲労感は薄らいでいた。
「洗うの手伝ってあげようか?」
首を振ると苦笑される。
「お風呂の中で寝ちゃダメだよ。寝るならベッドで寝なきゃ」
髪の毛、拭いてあげるよと言って扉を閉めた。
「まったく、時々ビックリさせるんだから」
無意識って恐いよね、と呟きながら惨の服を片付け始めた。
静かだなと思ってシャワールームの扉を開けると、浅い眠りに侵されて首をカクンとしている様子が見えた。ハーツェは苦笑してズボンの裾を折り上げてシャツを脱ぎソファに掛けて戻ると、浴槽の中でまどろんでいる惨を抱え上げる。
「風邪ひいちゃうよ」
バスタオルでくるんで起こさないようにそっと拭く。時々キスを落とすが惨が起きる気配は無い。
「これくらいの見返りだったら良いよね」