生死ベクトル
妖物ver/奈津x静雅
生業
無言の涙目で訴える静雅に、可哀そうだという思いと同時に虐めたいと欲が湧く。彼にとって、今回の依頼者は被害者でなく加害者に思えるのだろう。
「どうしても嫌なら、俺がしても良いんだけど」
きっと彼は今、呪いたくないけれど、俺に呪わせたくないという思いの間で揺れている。呪わない選択肢が無い事を彼は知っている。
[説得では駄目なの]
答えを知っている問い。これが日常ならば会話を楽しむ事もしたのだが、期限もある仕事だ。まどろっこしいのは鬱陶しい。
「命じられる事を期待するなって言ったよな」
もう良い、と言おうとすれば彼が腕に手を掛けた。邪魔をするのかと面越しに彼を視れば、涙をほろほろと零しながら首を振る。
[ごめんなさい。するから、僕が、呪うから]
知っている幽鬼は皆、この行為を願うと云う。口に語を乗せて発すれば、実となる。彼等にとって、なれば良いと思う事で、願いで間違ってはいないのだが、人間から見れば代償の無いそれは理不尽に見える。それを、彼は呪いと云う。彼の視点は焦点がずれているのか、何処か狂っている。
涙を流しているのに、澄んだ声で呪いの言葉が吐かれるのを聴いた。