ShortStory

R18/ML/挿入無

[君の本気を垣間見る]

生徒の就寝確認をして戻ってみれば、机の斜め向こうの唯兎さんはだいぶ飲まされたのか顔が赤かった。
肩に触れながら酒を注ぐゴリラに舌打ちしかける。あの体育教師め、下心があるのは解ってる。何時もだったら触れられる前に距離を取るが、教頭が横に居たからか、深酒してるからか甘んじていた。
それにしたって、酒に強いのに。どんだけ飲ませたんだ。
ふらりと揺れた唯兎さんに、ゴリラは先生大丈夫ですか、飲み過ぎたんじゃないですか、なんて言って。お前が飲ませたんじゃないか。
のほほんとした教頭と、お持ち帰りを狙ってるゴリラに我慢出来ずに席を立つ。
「羽咲先生、飲み過ぎたなら戻りましょう。オレも明日早いし、もう戻りますよ」
背後から声を掛けると、項が綺麗に朱で染まってい。
ここで触れれば許されないのは経験で解っている。自戒、自戒。
振り返りつつ、無防備に首を傾げた瞳は酒に蕩けていたが、オレを視界に入れると薄っすらと冷たい理性を宿した。
「疲れているんじゃないですか、そんなに酔って」
煩い、と低く呟かれるのは何時もの事。前後不覚になる程酔っていても、オレの前では理性を繋ぎ止める精神力にときめいた。
少し乱れた浴衣を直して、重たげな溜息を吐く。
どうやら教頭とゴリラとに挟まれていたのはかなりの負担だったようで。
「済みませんが、先に休みます」
ゴリラが呼ぶ声を無視して、柴先生、とオレを呼ぶ。アイツよりもオレの方が信用出来るのだと示されたようで、胸が揺れる。
「同室なんで、チャンとオレが送り届けますから」
笑顔でもって牽制して、支えようとしたオレを振り払って先に出た唯兎さんを追った。

何度か、酒の席を共にした事はあるが、唯兎さんは酒が好きだ。美人でお堅い唯兎さんを酔わせようと数人がかりで飲ませても、けろりとしているくらいに、大酒飲みでもある。
引率と方々に散った生徒に気を配り、移動も相俟って疲れたのだろうか。
内履きを脱いで上がろうとして、身体が傾いた。
「ッ、ん」
慌てて支えたが、それ以上に漏れた吐息に焦る。
「唯兎さん?」
あつい、と曖昧な呂律で呟いて数歩進むと畳に膝を付く。他所の経験上、吐くかと思って背に手を当てたら過剰に反応されて、睨まれた。それ、オレが悪いの。
「大丈夫ですか、冷やした水ありますけど」
宴会場に居た時よりずっと息が荒くなっていて、要らないから放っておけ、という言葉を信じられない。
「嫌ですよ。こんな状態の貴方を放っておくなんて。貴方が好きなんです、傷付けるような事はしませんから、居させて下さい」
オレの懇願を鼻で笑った直後、遂に身体を支えられなくなる。倒れる唯兎さんを受け止める。幾らオレの方が背が低くても、唯兎さんは華奢だ。膝も付いた状態なら支えられる。
クソ、と悪態を吐く唯兎さんは弱々しくて、ドキリとした。次いで身体の熱さに戸惑う。
「体調悪かったんですか、熱が」
「駄犬」
言葉を遮って布団に運べと指す。出来ればお姫様抱っこでもしてあげたいが、流石に無理で、ふらつく身体を支えるだけに留める。
ヤケに畳の目を感じて、唯兎さんの体重を意識する。
平素、絶対に触れさせない唯兎さんに触れられて、こんな弱った姿に欲情しないといえば嘘になる。だが、同時に心配で、理性と欲情は、今の所理性に軍配が上がっていた。
「あのゴリラに飲まされたんですか」
冷たい布団が気持ち良いのか眼を閉じた唯兎さんに声を掛けると、そんなに飲んではいないと思う、と曖昧な返答。
らしくない、と思えば、言い訳のように、こんなに酔う事をした覚えが無いと言う。
仰向けだから眩しいだろうと、灯りを間接照明だけに落とし、冷蔵庫から水を出す。要らないと言ったが、ボトルを首元に当てて息を吐いた。
「唯兎さん、一人でも大丈夫ですか。オレ、氷枕かなんか作って貰ってきます」
ぼんやりとした唯兎さんに少し近くで声を掛けると、牽制する瞳と眼が合う。きっとオレに頼るのは嫌なんだろう、少し迷って頷いた。
一人で居れば眠れるかな、とシーツだけ掛けると礼を言われ、唯兎さんらしいと思った。

昔ながらの氷枕に氷を入れて貸してくれた。水は適当に、という事で部屋のユニットバスで入れれば良いとの事。
戻れば、布団をすっぽり被ってい、眠ったのか寒気に変わったのかと思考を巡らす。
「唯兎さん、」
どっちにしろ、頭迄被ったら息苦しいだろうと近くで声を掛ければ、引き攣った声。
まさかと思った時には欲望に任せて布団を剥いでいた。理性が優っていたら、空気を呼んで散歩に出るか風呂に入るかした。
悪態と熱い呼気、乱れた浴衣、濡れた下肢。
視線から逃れようと後ろを向いた唯兎さんを後ろから抱き込んだ。
その触れられた刺激すら快感になるのか、身体を震わせる。
「離れろ、駄犬」
声こそ揺れて弱いものの、意志は何時も通りの強さで目眩を覚える。そういう所も好きなのに。
「やっぱりあのゴリラ、殺したい」
きっと、あのゴリラに一服盛られたんだと暗に言えば、否定の代わりにオレを牽制する言葉。貴方だって、解ってるじゃないか。
「オレ、あの脳筋嫌いです。唯兎さんの外側ばかり見て、何時だって隙を狙ってる」
「は、なれろ」
氷枕を抱えて冷えた身体が、熱すぎる唯兎さんの身体に触れて心地良い。汗で湿気た浴衣に鼻を当てて息を吸う。
「馬鹿犬、気持ち悪い事する、な」
「今なら酒のせいに出来ますし、唯兎さんはクスリのせいに出来ますよ」
回した腕を剥がそうとする手は力が入らずに縋っているようでもあって。
「触れるだけ、許して下さい。貴方の熱が引く迄」
誓いの代わりに項にキスをし、濡れた性器に指を這わせた。

顔を見る事を許されて、収まらない熱とオレに悪態を吐く唇に誘惑される。必死に堪える喘ぎ声に微かに残った理性を焼き潰されそうになる。
「閉じ込めて、オレだけの唯兎さんにしたい」
唯兎さんが罵声を吐くのはオレにだけだ。手を上げるのも、オレだけ。余程頭が回らないらしく、悪態のバリエーションは何時もの半分以下。
耳元で囁いた言葉に恐怖を感じたのか首を振る。
「でも、安心して下さいね。オレは貴方を傷付ける事はしません」
耳朶を柔らかく食んで、好きだと繰り返す。
「っ、あ、駄犬、耳ッぁあ、みみ、やめろ!」
「あれ、唯兎さん、耳弱いんですか?」
反対に回した手で押さえつつ、耳をべろりと舐めると背を逸らした。
「――ィ、あ…ひぃ……もぅ、」
ばか、と繰り返しながら押し返そうとする腕は弱くて、許されていると思う言い訳にする。
「唯兎さん、本当に好きなんです、愛しています」
熱に狂って自分を傷付けるくらいなら、オレのせいにしたら良い。
ゆっくりシゴいていた手をズラして先端を撫でると、我慢しきれなかったのか足が跳ね上がった。
それが張り詰めたオレの性器を掠めて、一瞬の冷や汗、それからしまった、と焦りが染める。
「しば……」
怯えた表情に、宥めようと髪を撫でる。
女性的に、男から性の対象に見られるのが嫌で、ショートにした髪。脱色を繰り返して、止めても色素がやや抜けたオレの髪とは違って、さらさら。
「大丈夫、オレは貴方を傷付けないから」
先端からゆっくりと下ろして根本の先迄触れると、過剰に反応された。
硬くて毛嫌いしていても、知識はあると思うとクるものがある。
そのまま指を進めてしまいたい、と欲に駆られるが、それをすれば唯兎さんは許してくれないだろう。
蟻の門渡りで指を行き来すれば、恐怖と快感で顔を歪ませる。突っ込んだら、と想像しかけて自制した。
我慢出来なくなりそうだ。
何度か汗を拭いたタオルに手を付いて、顔に触れて良いか問う。
美しさを褒められても適当に返す唯兎さんだけど、実はそんな自分の顔が好きじゃない。
ダメと返ってこなかったので、勝手に頬に触れる。未だに熱くて、冷めるのか、なんて恐れが過ぎって、自分が思うくらいだから唯兎さんはもっと怖いだろうと、思考を隠した。
「ほら、大丈夫。オレは無理に犯したりしない。強要しませんから、安心して」
求めて、と願いつつ言い聞かせる。オレは貴方を愛してる。

起こせ、と言われて首に腕を回して抱き起こす。思った通りに身体を支えられず、唯兎さんはオレの肩に顔を乗せて凭れ掛かった。
しば、と耳元で呼ばれる。身長差を意識しつつ、唯兎さんから触れてきた事実に酔う。
太腿に手を感じて、焦った。
「唯兎、さん?」
「俺ばっかり、だから」
恐る恐るボクサー越しに触れられる。
「唯兎さん、無理しなくても」
此処で拒絶されたら、オレの希望が薄くなると焦って言えば、逆撫でしたらしく、握り込まれた。
「いう、さ……」
未だ触れる許可は有効だ、と背に腕を回す。
唯兎さんがオレに触れてる。
「嬉しい、気持ちイイ、唯兎さん」
軽く腰を揺らすと気を良くしたのかボクサーを下げられて。一瞬びくつきながらも、滲む先走りを広げながら両手で扱かれる。
何時の間にかオレも唯兎さんのを扱いて、耳元で我慢しきれず漏れる喘ぎに染まって夢中になる。
「ぁ…あんま、呼ぶなっ――ア、あ、も、駄犬、ン」
「唯兎さん、好き。大好き」
「だまれ、っ、唇も…ぃ、いから」
どれだけ言っても足りないくらい、愛してるのに、と憤慨しつつも、手だけでなく唇が触れる許可に舞い上がった。
目の前の鎖骨に触れて、形をなぞるように舐め上げる。
もう、何処を触れても感じるのか、きつく抱き締められて、鼓動が早くなる。
軽く吸い付くと怒られた。
「傷付けない、と言ったでしょう」
痕は残さない、と翌朝には消える程度に色付いた場所に唇を押し付ける。
キスしたい。
一つ許されると、次の欲が湧く。
膝立ちになって耳元で名を呼ぶ。舌打ちと共に駄犬が、と罵られるが悪い気はしない。
「唯兎さん、キスしたい」
首筋にキスして、白濁と先走りに濡れる唯兎さんの性器を片手で扱き、オレのを握る唯兎さんの手に片手を重ねる。必然、唯兎さんの肩に体重を少しなりとも預ける形になった。
浴衣が開いて素肌同士で触れる肌が熱い。
「唯兎、さん」
イきたいのだ、と示すように上から握り込んだ手を強くして上下に動かす。
「愛してる、唯兎さん。好き、すき」
すき、と繰り返しながら腰を揺らす。このままイきたい。唯兎さんのキスが欲しい。
お互いの性器を重ね、唯兎さんに持たせる。片手で戸惑う手に握らせて上から扱くと、快楽にぐずぐずな唯兎さんは素直に手を動かした。
顎に触れると、とろんとした瞳を揺らして理性を垣間見せる。やっぱり顔を触れられるのは嫌なんだな、と思いつつ心の内で謝罪する。
「一緒にイきたい、」
呼んで、先端を擦って、唇を重ねた。
絶頂に荒くなる息が隙間から漏れ、
「けん、た」
ヒクリと身体を揺らして唯兎さんはオレに凭れ掛かる。
「い、唯兎さん、今……て、お決まりかよ」
流石に酒とクスリとイき過ぎで、昼間の疲れもあっただろうし、と自分を慰めつつ、慎重に横に寝かせた。
顔に掛かる髪を退かせて額にキスを落とす。
名前を呼んでくれたと思っても良いだろうか。
きっと、オレに見せるつもりなど無かっただろう寝顔を堪能して、後始末を始めた。


目が覚めて、時計を確認しようとして無く、修学旅行の引率だったと思い出す。
起き上がろうとして、鈍く響く頭痛に眉を顰めて、昨晩の事を思い出した。
「――ッ」
断れずに飲んで、進みすぎた酒。収まらない熱。
さして乱れていない自分の浴衣を見下ろし、身体がカッと熱くなる。
風呂に行こうと荷物を纏め、部屋を出ようとして、辞めた。
柴は早朝の見回り、起床担当だ。部屋を出る迄に戻れず、鍵に困る。
同じ部屋に居たくなかったが、ユニットバスで諦めた。

携帯電話の目覚ましで起きると、既に唯兎さんは起きていた。
整えられた布団と消えた氷枕に、規則正しそうな私生活を垣間見たような気になる。
入口に内履きがある事を確認して、バスルームをノックした。
「唯兎さん、おはようございます。体調大丈夫ですか?」
返事の代わりにガンッと壁が殴る音が聞こえて、お怒りの様子に思わずノブから手を離す。
「い、唯兎さん……?」
シャワーの音が止んだ。
「昨日は悪かった」
覚えているのだろうか、と微妙な返答に勘繰りたくなる。
「お前、ゆっくりしていて良いのか」
「あ、起床点検!済みません、入っても良いですか?」
シャワーを浴びる予定は無い、と弁解すると許可が下りる。洗面用具を持っていそいそと入れば、案の定シャワーカーテンが引かれていた。中身の無い氷枕がでろんとタオルハンガーに掛かっていて、無意味に死体みたいだと思う。
ほんの少し残念に思いながら、再開するシャワーの音に声を大きくする。
「唯兎さん、」
「氷枕、お前が用意してくれたんだろう。ありがとう」
心底、不本意だと言わんばかりの声音で。
「いえ、未だ先は長いですし」
昨晩の事を覚えているか否かは解らないが、無かった事にしたい気持ちは解る。
覚えていたら、結構強引に触れたから怒られて、以降近付くなと言われるかな、と思っていた分、ずっとマシだ。
さっさと身支度して、この後オレはそのまま朝食へ行き、そこで合流すると確認して部屋を出た。
バイキング形式の朝食に、唯兎さんは少し遅れて現れて、
「先に荷造りした」
と言い訳。まあ、実際していそうだな、と思う。対してオレは昨日少し広げたままで、袋に詰め込んだ昨日の服や少しの土産物が出しっ放し。
先に部屋に戻って、荷造りする。連日、宿泊先を変えるのは面倒だ。
「あ、」
鞄の底に隠したビニール袋が消えている。
丁度、無い事に気付いた時に唯兎さんが戻ってきて、オレの行動を理解すると、背を蹴った。
「お前、盗難で訴えるぞ」
「すみません、でも、取り返されてる!」
「この変態駄犬が。さっさとしろ、教師が遅れてどうする」
もう一度、立ったまま十分に体重を乗せて蹴られ、唯兎さんは荷物を持って出て行った。
心無しか、何時もより蹴りが弱かったような、気がしないでもない。
END?

タイトル[君の本気を垣間見る] meine様よりお借りしました
実は恋愛好きシリーズからタイトルを、内容に憎悪嫌いシリーズから[ライバルへの殺意]を

盗んだものは想像にお任せします
柴賢大しばけんた物理学教師
羽咲唯兎うさきいう数学教師
攻→→受で恋人でも友人でもなく同僚