ShortStory
R18/病み気味ワンコx無気力
擦れ違いジャマー
溢れて垂れた精液がシーツに染みて冷たい。
「そう……すき、そうま」
細かいキスが降ってきて、そろそろ終わるかなと思う。
こんなマグロの俺を抱いて、何が楽しいのか解らない。
「っは、ん……よう」
呼べば嬉しそうに笑う。
苦しいんだ、早くイってイかせろ。
足を抱えられて結合が深くなる。溢れる白濁と水音に耳を塞ぎたくなった。
早くなったピストンと首に掛かる熱い息に酔う。
「そう、きもちいいよ。すきだよ、そう……そう…」
何で陽樹は俺が好きなんだろう。
大きい身体に抱き込まれて、擦られて射精した。
倦怠感に任せる前にガツガツ掘られて眼が回る。下半身の感覚なんて殆ど無くて、喘ぎ声でイったんだと感じた。
呆っとしていると抱き締められる。
肩に押し付けられる唇に気付いた時には遅かった。
「ィ゛、づあ…ぅ」
ぎちりと歯が食い込んだ。
引き剥がそうと頭に手を掛けるが痛すぎて力が入らない。髪に絡んだ指はまるで縋るようじゃないか、と自責する。
「たぃ、ばか、ぃ゛あい、から」
ぼろぼろ涙が出て何も見えない。肉が挟まれて痛い。頭の片隅で暫く左肩は上がらないな、と思う。
痛みで思考が真っ赤に染まる。
本格的に泣きが入ってきて、力が入っているか否かも解らなくなる。
「ぁぁ゛あああ!……ッい、たい、…ばか、よう」
一回離れたのに噛み直されて、今度は犬歯が押し付けられて皮膚が切れた。
傷口を広げられて、舌が這う。痕が残るように吸い付いて血を啜る。
気付けば泣きながら震える指で縋っていた。
起きると陽樹は情けない顔で俺の髪を梳いていた。微かに消毒液の匂いがする。
泣き疲れて寝たんだろう。あんなにしつこく噛まれたのは久しぶりだった。
思い出すと左肩が熱を持ってズキズキと痛む。
「陽樹、喉乾いた」
寝起きと泣き枯れた喉で酷い声だった。それでも嬉しそうに笑ってキッチンへ駆けていく。
不意に、捨てられたら生きていけないと泣いた陽樹を思い出した。
スポーツドリンクを携え戻ってきた陽樹に身体を起こされる。何もしないのは噛まれた事に対するささやかな反抗だ。
動くと肩が痛いし、面倒だってだけだけど。
ペットボトルをシャツ越しに肩に当てる。重さで圧迫されて痛いが、強張った感じが引く。
冷たさに一度閉じた瞼を上げて、視線を合わせる。
「バカじゃねえの」
俺に嫌われるのが怖いくせに、俺をぼろぼろにして、謝罪一つも言えずに泣きそうになって。
「暫くお前が家事全部しろよ」
「想麻、いいの」
図体でかいお前がへこんでると鬱陶しい。
「夕飯は焼きうどん」
「キャベツと紅しょうが買ってくる!」
はいはい、と適当に流せば、ベッドに乗り上げてバードキス。
「いってきますのちゅー」
陽樹はちょっと照れつつ、にへらと笑った。
ベッドに寝転がって呆とする。
考えるのは陽樹の事ばかりで、それに気付くと苛ついた。
昼間の本屋で出会ったあいつは俺のストーカーで。偶然を装って声を掛けるも失敗して、勢いに任せた告白をされた。
綺麗に言えば、ずっと影から見ていましたって事なのに、必死に訴える様は恐怖の対象でしかなかった。
その場では断ったのに、陽樹はついてきて尽くしまくった。行動パターンは勿論、食事の好みも把握して、引き離すのも面倒な程、尽くされて俺が折れた。
不覚にも、ほだされた。
何で俺なんだと聞いた時には赤いリボンを俺の小指に結び、反対を俺に結ばせた。
「運命だよ。好きに理由なんか無い」
結び合ったリボンで繋がったまま、陽樹は上機嫌でキスを繰り返した。
男と付き合ってる事なんて秘密にしておきたいのに、陽樹は指輪を用意して俺に着けさせた。
誰かに奪われると怯えて、無気力な俺が選択する程の相手が現れる事を恐れているバカな陽樹。
俺は殆どお前に食われて、他の誰かにやる分なんか残っていないのに。
こんな傷や痕を付けなくても、俺は何処にも行かないのに。
声が聞きたいから、泣かせてしまう。
きっと想麻はそんな本音を知らず、俺の不安だけを見ていて、俺に甘えるフリをして甘やかしてくれる。
憎しみでも嫌悪でも良いから、俺だけを見て欲しい。
何事にもやる気なんて皆無で、押されたら折れてしまう想麻。
だから俺みたいなどうしようもないヤツに噛まれるんだ。