TheRose
ツウイン編/雰囲気モノ/R18
拘束具
兄さん、入るよ?
堅いノックが長い廊下と広い部屋の両方へ響く。
嫌、駄目
兄さん?
がちゃりと重い扉を開けてインは部屋に足を踏み入れる。真直ぐ進むと正面の扉は明け放たれていて、ベッドルームが広がっていた。
兄さん、此処に居んの?
扉に長い指を掛けてゆっくりと覗く。その先には真白なベッドを赤く染めてツウが腕を抱えて座っていた。
兄さんっ
インが駆け寄り、見せるのを嫌がる腕を無理矢理晒す。
嫌…
……兄さん
重い溜息と共にそう吐き出す。
兄さん、この前俺と約束しなかった?
ごめん
ねェ兄さん、俺、兄さんが自傷するの赦してるけど、ここ迄酷いの駄目だって言ったよな?
深く、何度も切り込まれた、否、己の爪で引き裂いた、未だ赤い傷口。
ここ迄して良いのは俺だけだって
……ごめん ごめん、イン
インの胸に縋る様に頭を下ろす。
ごめん
インはツウを引き寄せて腕の傷を舐めた。
ごめん
撫でるように優しく傷の周りから、だんだんと傷の近くへと血を舐め取る。
イン、ごめん
そんなに謝る位なら最初からしないでよ
…ごめん
それに、此処だけじゃないでしょ
……ごめん
髪、上げて
一通り血が落ちた腕を放して首を引き寄せる。ツウは躊躇いつつも髪を掻き揚げた。
取るよ、包帯
…嫌
インから眼を離そうとしたツウの顔を両手で挟み軽いキスを送る。
嫌って言われても取る
唇の端を上げて言うと、きつく巻かれた首の包帯を手早く取り去った。
兄さん……
白いのは外の一巻きだけで、後はぐっしょりと重い。
こんなにする前に俺を呼んでよ
髪を掻き揚げたままのツウを押し倒し、首筋を噛む様に咥えて血を吸い取る。
ごめん
何で俺は居るの?
ごめん
ねえ
……愛してるよ、イン
俺も愛してる、ツウ だから、俺を喚んでって言ったのに
うん、ごめん
ちゃんと約束したのに
ごめん
次はちゃんと言える?
ツウは押し黙ったまま、インにされるがまま血を舐め取られる。
言えるって言ってよ 俺としたいって言ってよ
そう半泣きで首を締めて脅してみても、ツウは何も応えない。
ねえ、兄さんっ
長い爪を髪に入れて頭を握る。
ねえ……っ
突然、ツウがインを引き下ろして熱い接吻を交わす。
僕等は他の兄弟達より相手に酷く依存してるから…
だからって離れようなんて無理 俺が赦さない
ごめん 僕の我侭
兄さんの我侭は自傷癖だけで良い
首筋に長い舌を滑らせる。
俺はツウを束縛したい だからツウは俺に依存して
イン…
二人は薄い、血で赤く染まった毛布に包まって抱き合って眠った。
イン?
ツウが目覚めた時に、既にインは何処かへ行ってしまっていた。
イン、何処?
不安げで細い声を出し、部屋の中を彷徨い歩く。
――がちゃり
インっ
静かにゆっくりと入口の扉が開いたかと思うとインの白い髪が覗いた。
あれ、兄さん、起きてたの?
起きたらインが居なかったから…
兄さん、泣いてるんだね
後手に扉を閉めて涙を舐め取る。
ごめんね ちょっと欲しいものが在ったから
欲しい、もの?
兄さんがあんな酷い自傷をしないように、俺が縛ってあげる
そう取り出したのは黒い簡易拘束具。
ね、これならきっと約束を守れる
にっこり笑う弟を見て、兄も微笑む。
そうだね これでインを悲しませずに居られる
拘束具を付けながら接吻を交わし囁く。
愛してるよ、ツウ
僕も愛してるよ、イン