TheRose

ツウイン編/雰囲気モノ/R18

ピアス

兄さん、帰ってきてんの?
短いノックの直後、扉の開く音と共にそう発せられた。
ああ、イン、起きた?
ん…  俺が寝てる間に帰ってきてたんだ
ツウの部屋の奥の寝室と、入口との間で双子は手を絡め、軽く唇を啄ばみ合う。
起こしてくれれば良かったのに
ごめんね、余りにも心地よさそうにインが寝ていて、起こせなかったんだ
じゃあ、俺の隣に居てくれたら良かった
うん、次からはそうする  そしたらインの寝顔が独り占めだもんね
そして二人はくすくすと笑う。
ねェ、何買ってきたの?
えっと、色々
にこりと笑う。
今、言い並べるの面倒になっただろ
えへへ、そう  見た方が早いんじゃないかな
そうインの手を引き寝室へと向かう。
結構、沢山買ったんだね
うん  服は殆ど姐さんが勝手に、だけれど
やっぱり
くすくすとインが笑って、ベッドの上に広げられた様々な物を興味深げに手に取る。
全部、二個ずつ?
多分  服はよく解らないよ
じゃあ、兄さんは何を買いに行ったの?
ああ、えっと、何処へいったかな…  あ、在った、これだよ、これ
そうがさごそとやって探し当てた紙袋を逆さまにしてばらばらと中身を散らばせる。
何これ?
その一つを摘み上げて裏表を何度も返し、観る。
ピアッサーって云うんだって  名前は今日初めて知ったけど
ぴあっさー?  あァ、耳とかに穴開けるヤツ?  兄さん、ピアスしたいの?
ピアスって云うか、何でも良かったんだけど…
何?
言いよどむ兄に詰め寄って、しっかりと眼を合わせる。
言ってよ  兄さんのその喉で
酷いな、解ってるんでしょう?
そうだとしても俺は兄さんが言ってくれないならやってあげない
ほら、解ってるんじゃない
言って
そう兄の喉に爪を浅く沈める。
言ってくれないとやってあげない
しつこく繰り返すインにツウはくすくすと笑う。
僕はインに、ピアスの穴を開けて欲しい  これで良い?
も一回
インは我侭だなあ、もう  インに穴を開けてもらいたいの  ね、お願い
そう言うと二人でくすくすと笑って、インは一つ開封する。
最初はね、その辺にある安全ピンで良いやって思ってたんだけど、リー姉さんにばれちゃって  仕様が無いから
リー姉は心配性だもんなァ
ウィザー兄さんもね
そう、だから最初っから、安全ピンとか、他のピアスが付いてたらリー姉さんが心配するし、もしかしたら倒れちゃうかもしれないから
だな  リー姉ぶっ倒れそう
ね、早く開けて
そう催促し、ちょこんとベッドの上に座り直す。
って言われてもいまいちこれ、使い方が解んらねー
握るだけって言ってたよ?
ん?  じゃ、これ?
多分
ふーん  で、何処?
とりあえず、耳たぶの所に三つは開けたいから、それを考えてくれれば何処でも
じゃあ、耳たぶの何処か?
うん  軟骨の方も同じ位の間隔で開けたいけど、取敢えず、片耳一個ずつ、かな
そっか  鏡とかで場所確認してからじゃなくて良い?
うん  インが選んだ場所なら何処でも良いよ
そう頷くと、インはそっと兄の耳たぶに針の先を当てる。
いくよ?
うん、一気にいってくれた方が成功するって
詰んねえの  じわじわと…  ま、良いや
と、軽くかしゃん、と握った。
ーっ!
痛い?
少しだけ  ああ、じんじんする
そっと機械を外し、インはそれを眺める。
まァ、赤くはなってるけどそんなに出血しないんだな
そうらしいけど…  聞いていたのより、痛いな
気持ち良い?
うん
じゃ、もう片方ね
もう慣れた様で手早く行ってしまう。
痛い?
もう慣れちゃったかも
未だ開ける?
んー…開けたいけど、あんまり一気に開けても詰らないし、リー姉さんが驚いちゃうよ
そだな
そう言いながらもインは新しいピアッサーを開封する。
イン…?
兄さんだけ開けるなんてずるいだろ  開けて、兄さん、俺にも
…僕が?
うん  絶対
……無理だよ
何で?
僕が傷付けられるのは僕だけだもん
知ってるよ
じゃあ、解ってない
解ってる  だから言ってるんじゃないか  ね、ほら開けて  握るだけだろ?
でも……
兄さんは俺が嫌い?
愛してるよ
じゃ、開けて
それとこれとは…
違うかもしれないけど、良いじゃん  兄さんだけってのは駄目  俺が許さない  ね?
………………解ったよ…  本当、インは我侭なんだから
そ、俺は我侭なの  解ったら早く、早く
ピアッサーをインの耳に当てる。が、暫くして手を下ろした。
ん…  やっぱ僕には無理だよ…
嫌  やって
イン…
お願い
震えるツウにそっと腕を回し囁く。
……うん
再び戻し、眼をぎゅっと堅く瞑り、握った。
ーっ  ありがと、兄さん
息を荒くして、俯いている兄を抱き寄せる。
でも、もう一つだよ?
うん、そうだね
頷いたツウの手に、何時の間にか開封したピアッサーを乗せる。
兄さん
うん、大丈夫  大丈夫じゃないけど大丈夫
そう言って眼を瞑り、ごくりと喉を鳴らすとぎゅっと握った。そして先程と同じ様にそろそろと手を離すと、ぐったりと倒れこんだ。それをインが受止めて額にキスを送る。
ありがと、兄さん  愛してる
もう、嫌…
でも兄さんがまた開ける時は、同じだよ?
解ってるけど…
じゃ、開けない?
嫌  インに開けて欲しい
ああ、兄さん可愛いよ  本当、愛しい
我侭なインも可愛いよ  イン、愛してる
俺もだよ、兄さん  愛してる
そして二人はそのまま服やらピアッサーの残骸と新品とに囲まれて眠りについた。