TheRose

ツウイン編/雰囲気モノ/R18

外出

兄さん、兄さん、一緒に出かけない?
ノックと共に扉を開け、兄の返事を待たずに部屋に押し入って楽しそうに言う。
イン…?
あれ、兄さん寝ていたの?  ごめんね、起しちゃった?
ううん、ちょっとぼんやりしていただけだから
ベッドに座っているツウの手を取って手首にそっとキスを送る。
薬飲んだ?
…うん  でも二、三時間前、かな
微妙に焦点の合わない兄の瞳を覗きながらキスした腕を頬に寄せた。
量は?
何時もの半分
髪と頬でくすぐったがり、くすりと笑って応えると、その手を後ろに回して引き寄せる。
ん…  兄さん
イン、外は良いの?
軽く舌を絡ませ唇を啄ばむとそろりとベッドから降りた。
このまま兄さんと遊べるなら良いかなァとか思ったけど
きっと、途中で寝てしまうよ
それなら外へ
白く細い裸体を曝しながらクローゼットを開ける。
兄さん、その白と灰色の服が良いな
これ?
適当に出そうとしていた兄に声を掛けた。
そう、それ  俺はそれの黒いのを着ていくよ
にっこり言うとベッドから降りて、兄と少し指を絡ませて扉へと足を向ける。
そうだ、兄さん  今日は少し寒いようだから、ズボンは長い方が良いよ
うん、ありがとう
それにあんまり短いの穿いて行くと、兄さんを喰うように見るのいるからさ
インもね
二人でくすくすと笑うと、それじゃあ僕が部屋に行くよと言って、各々の部屋で着替えた。


少し音をたててベルトを締めると兄に振り返って言った。
兄さん、ピアス変えて良い?
僕の?
あァ、俺のはもう変えたから  折角服、お揃いにしたんだからさ
そう言われると軽やかに笑って、お揃い、と嬉しそうに口にした。
そ、お揃い
ちょこんと座り直す兄にピアスの入ったケースを持って歩み寄る。
ツウはじっとインがピアスを外し、別のピアスを挿すのを待ちながら、楽しそうに笑っていた。
ねえ、今日は何処へ行くの?
同じくインも楽しそうに笑っている。
何処にしようかなァ  あんま考えてねェんだよなー…
そうなの?
そなの  兄さんとデートがしたいなって思っただけだからさ
買物は?
どっちでも良いよ  兄さんが良ければ  何か欲しい物とか無いの、兄さんは
僕?  うーん…無いなあ  強いて云えば、新しいピアス、かな
じゃあ、取敢えず街に出る?
そうだね  そうしようか
ピアスの付け替えが終わりケースを閉じると兄の手を取って立ち上がった。そして向かいに立ち、じっくりと兄の姿を眺める。
イン…?
兄さん、最高っ
そしてぎゅっと抱締めて首筋に軽く口付ける。
そう?  髪が少し邪魔なんだけれど…  インも最高に格好良いよ
ありがと  髪邪魔?  結ぶ?
インの好きなように
同じ様に首に接吻し微笑んだ。
じゃァ、そのままで  結んでも良いけど、今日は寒いから  きっと髪を上げていると寒いよ  そんな詰らない事で風邪にでもなったりしたら…
眉を寄せ手に指を絡ませ今にでも泣き出しそうな表情を見せる。
ありがとう、イン  愛してるよ
うん、俺もツウの事愛してる  行こうか、兄さん


街に出て暫くして足取りがふら付き始めたツウを近くのベンチに座らせる。
兄さん、大丈夫?  人間の多い所、苦手だから…
ううん、大丈夫だよ  ちょっと、薬で眠いだけだから
心配そうに見詰めるインを手招きして、額同士を重ね合わせる。ツウの暗い蒼の髪とインの白い髪が混ざって鮮やかな青を生み出した。
ほら、大丈夫でしょう?
…うん  でも、疲れたら言ってよ、無理しちゃ嫌だからな
離れつつ立ち上がったツウに腕を絡ませる。
ちょっ、イン  此処、外……
慌てて身を離そうとしたがインは許さない。
良いじゃん、これ位
でも…
それじゃァ、お姫様抱っこするぞ?
それは嫌
じゃ、良いじゃん  あ、あのお姉さん達こっち見てる  きっと兄さんが綺麗だからだよ
インだって同じ顔じゃない
ま、そうだけどさ  どっちにしろ絶対兄さんはやらない
イン…  そんな事、言わなくても僕はインのものだよ
兄さん…  ァ、喉渇いた  あの喫茶店入ろうよ
え?  良いけど…あ、ちょっと待ってよ、インっ
喫茶店に兄を引っ張る様に連れて行き、席に着くと冷たい紅茶と珈琲、それからビッグパフェを一つ頼んだ。
…イン?
しきりに髪を弄っているインに首を傾ぐ。
ねえ、イン、どうしたの
パフェが置かれて再び声を掛けられると漸くしてから顔を上げて、あァ、と呟いた。
……鏡、が
何処に?
あの、道の  ほら、車の為のミラーが在って
そっか  ね、イン、あーん
へ?  ァ、あーん
長いスプーンにアイスクリームを載せてインの口へと持っていく。
ね、イン、気にする事なんてないよ  街ってそこいら中鏡が在るから…嫌だったら言ってね
ン  兄さん、あーん
え?  いいよ、自分で食べれる
良いじゃん、お返し
にっこり微笑んでクリームを載せたスプーンを差し出した。
パフェを二人で半分位迄食べ終わった頃、ツウはうつらうつらとし始めた。ふらりと揺れたスプーンがかつんとパフェのカップに当たり音を立てる。
兄さん
……あ、ごめん
良いよ、無理しなくても  眠いなら少し眠ってしまえば
すっと正面から隣へと身を移動させる。
ほら、寄り掛かって良いから、な?
う…ん……  じゃあ、ちょっとだけ
うん、お休み、兄さん
ん……
こてん、と頭をインの肩へと乗せる。さらりと蒼い髪が白い髪に交わった。インはその頭をそっと撫でてスプーンを持ち直す。
さて、と……
そしてクリームとナッツを掬いながらちらりと隣のボックス席に眼を向けた。
そこのお姉さん達さー、さっきから何?  用が有るなら今の内だよ?
やや刺々しい声で呼び寄せる。するとランと同じ程の年頃の女性が二人、インの前に座った。
気付いちゃってたか、と苦笑しながらもにっこりと微笑む。
あのさ、勘違いされちゃ困るから先に言うけどね、呼んだのは誘う為じゃないから
明らかに敵意剥き出しのその発言に一瞬眉を寄せるが、再び微笑んだ。どうにか大人としての威厳を保ちたかったのだろう。
さっきから俺は別に良いけど、兄さんじろじろ見ちゃってさァ  止めてくンない、兄さんが減っちゃったらどうするのさ
冗談めいた様に言って、今度はアイスクリームを掬って口に運ぶ。
今日はそう云う為に来たんじゃないんだよ  兄さんと遊びに来ただけなんだ  別に誰か引っ掛けに来た訳じゃないんだよ
そう、俺はヤン兄とは違うんだからね、と付け足した。
まーァそんなのどうでも良いけどさ、兄さんが起きる前にどっか行って
既に明らかな不満を示す二人にスプーンを振って追い返そうとする。
そんな欲求不満ならさ、他の奴紹介するから  って、今は面倒だから嫌だけど
再びアイスクリームを口に入れ、バイバイ、と微笑む。流石に二人は立ち上がって去っていった。
あーァ、これだから外って面倒なんだよなァ  ったく館の作用か何か知らないけどさ、要らない虫が寄ってきちゃって、ねェ?
そう妖しく笑みながら兄の髪にキスして髪を梳く。
兄さん、起きないならコレ、全部食べちゃっても良いかな?
くすりと笑ってパフェを崩しに掛かった。