TheRose

ツウイン編/雰囲気モノ/R18

小悪戯

本を読むのも、ぼうっとするのにも飽きて兄さんの部屋に出掛ける
出掛けるって云っても隣の部屋なんだけどさ
兄さん、居る?
多分居るよな、と思いながら  だって兄さん、一人で余り出歩きたがらないから  ま、俺も似た様なもんだけど
兄さん?
声を掛けつつ一番奥の寝室に入ると兄さんはベッドの上で本を広げ、俯けに寝そべっていた
起きてるの?
眠っているのかも、と忍び足で近付くと本当に寝てた
もう…風邪引いちゃうよ
何度注意したら心掛けてくれるかな  本読んだまま眠っても良いけど、せめても毛布位は被ってと何度も言ってるのに
本を押えている手をそっと退かして、栞を挟んでベッドサイドに本を置く  ちゃんと何所迄読んだか判る様にしとかないと後で兄さんが怒るから
ワザと怒らせても良いけど、本だとなかなか口利いてくれなくなっちゃうから  そおっと俯けになっているのを上に向かせて毛布を掛ける
兄さんは俯けで寝ると起きた時苦しそうにするから  息出来ないって訳じゃないみたいだけど、息苦しいのかも
部屋にはベッド以外の家具が無くて、在るとしたらベッドと半一体のベッドサイドチェストだけで、椅子すら無い  だからベッドを揺らさないように兄さんの隣に足を抱えて座って、顔に掛かっている不思議な蒼をした髪を退けた
兄さん…
こうしていると、兄さんに好きだと告げる前にしていた悪戯を思い出す  未だ、綺麗だけの思い出にはなってくれてはいないけど  昼寝で俺のが早く起きる度に接吻した  唇と唇を重ねるだけの、キスだったけど
俺の罪はあの時から始まった  多分、同じ血の流れている、同じ顔をした兄を、愛した  いや、愛している、だけど
この館には色んな愛の形の奴が居るけど、外では一般でないとされがちな奴が多いみたいだけど、俺等は何所迄外れているんだろう  異端ばかりが集い兄弟となるこの館でも、皆とは違う  血縁ではなく愛縁、てな感じのもので繋がれた俺等だけど、唯一血が繋がっているであろう俺等が愛し合っていて  セバスチャンは俺等を指して、ある意味館の象徴だと言った  皆、愛を求めて外へ行くのに俺等は出て行かない  珍しく赤ん坊の頃から館に居た俺等  皆は早くても、物心ついてから位だったらしいんだけど  此処に来る前の事を尋ねた事が有るけど、覚えているかすら教えてくれなかった  館に始まり、館に終るだろう俺等  意志が在れば出て行ける  でも、そんな意志は無い
俺には兄さんが居る  兄さんには俺が居る  二人で一つの異端  生まれた時から、二人で一つ  でも、ある時同じ罪を背負ってしまった
兄や姉等は罪じゃないと言う  この館ではどんな愛も存在可能だと
それでも、俺等は罪だと、そう思い続けている  館の中に同性愛者も居ないし  同性でも平気って奴は居るけど、同性が良いって奴は居ない  何より、性別以上に俺等は血が繋がっている  血液鑑定は怖くて出来なかった  でも、これだけ周囲が認める程に同じ顔をしているのだから疑いようが無い  俺等は双子  同性で、双子で、愛し合って  どうして罪じゃないと言えるんだろう
ああ、ツウ大好き、愛してるよ  ツウだから、愛してる
真白なベッドに広がる蒼髪を弄び兄さんを眺める  さっきから何の夢を見ているのか時々長く蒼い睫を震わせて笑ったりして  悲しい夢を視ていないのなら、良いかな  兄さんには楽しい夢を視て欲しい
思わず軽く額にキスを落とす  一回じゃ足りなくて、二回、三回と場所を移して  五回目位でやっと兄さんはくすぐったいのか身を捩って向こうを向いた
悪戯したいな
ふつふつとそう云った思いが湧き上がってしまう  あんまりにも兄さんが可愛いから、愛らしいから  でも、折角気持ち良さそうに眠っているのに起こしてしまうのは嫌
そっと頬を撫でるとそれから逃げて更に顔を下へ向ける  そんなに下へとしてしまったら息苦しいだろうに
…イン……
突然兄さんはそう呟いて上を向いて身体を回した
兄さん起きて、た――
でも、そのまま反対側へと向いてしまった
兄さん?
呼び掛け頬を撫でると、くすぐったそうに毛布を寄せて少し潜る
…………寝言かァ
軽く溜息を吐いて、残念かなーと考える  兄さんの寝顔を見るのとじゃあ、どっちも捨て難いよな、って事で決着
髪の先を弄び、時折キスしたり頬に触れたりしていると、段々と兄さんは毛布に潜っていく
それでも放っておいたら突然、兄さんは飛び起きた
はあっ  はあ……はあっ…  あ、れ…?  イン?
肩で息をして俺を見とめる  きっと、息がマトモに出来なかったんだろうな、兄さん呼吸下手だから
じゃあ、未だ夢の、中……?
ぺたぺたと俺の顔に触れ、自分に触れ首を傾ぐ
どっちだと思う?
問うと兄さんは迷って言い澱んだ
じゃあ、夢と現実とどっちが良い?
兄さんは未だ未だ迷って、こっちを選んだらこうで…と呟く
兄さん?
急かすと恥ずかしそうに見上げて手を伸ばし指を絡める
その…ね、現実だったら良いなって
何で?
……起きた時に、インが居たら良いなって…
躊躇いながらも答えると恥ずかしさに頬を赤らめ俯いた  本当、兄さんは可愛いなァ
ねえ、兄さん?
…何?
問うと顔を上げて首を傾ぐ  兄さんが首を傾げる度に鮮やかな髪が揺れてさらさらと流れた
夢に俺が出てたの?
あ……
聞いた途端顔を真っ赤にして直ぐに顔を叛けた  どんな夢だったんだろー
兄さん?
…出て、たよ……
どんな?
そっと頬に手をやると逃げて、首を横に振る
俺に言えないの?
そんな事っ……ない、けど…
ああ、可愛い兄さん  そんな顔赤くして、どんな夢を視ていたの  兄さんの横から移動して跨って顔を近付けた
ねェ兄さん、どんな夢だった?  俺は何してた?  兄さんも出ていた?
キスしそうな程近くで、兄さんは首を横に振り続ける
僕も、居たけど…  その、僕の視点だったから……
じゃァ、兄さんと俺、何してたの?
兄さんは頬を赤く染めたまま首を振る  そんな拒否されちゃうとさ、虐めたくなっちゃうだろ  可愛いなァ、兄さん
兄さん
呼び掛けるとやっと顔を上げた  その頬から顎をなぞって手を下ろして行く  でも、兄さんの感じちゃう所はすれすれで避けて
ぁ、ん…イン……
え、何その可愛い声  思わず手が止まる  俺、そんな所触ってないよな?  若しかして……
見詰めていると兄さんは慌てて顔を伏せて、顔を見られない様にと俺に抱き付いた
もう、解ったでしょう…?  だから、言わせないで
顔を摺り寄せる兄さんに腕を回して、楽しい気分になってくる  本当、兄さん可愛過ぎ
え、解んないよ  俺馬鹿だもん、言ってくれないとなー
ああ、笑い声混じっちゃった
インの意地悪…
そんな眼で見上げないでよ、止まんなくなっちゃうって  ま、止めなくても良いか
ツウ、教えてよ?  そうしたら続き、してあげるよ?
顎を捉えて今度こそはちゃんと顔を見られるように
あ…
そんな顔を真赤にさせて、夢の中でどんな事をしていたんだろうね  頑張って眼だけでもと逸らせるツウを捕える指先で撫でる
それとも、続きじゃなくても良い?
耳元で囁くと、もう俺は止まらない
イン
悪戯以上の事をしようとすると、俺を呼んでやっと眼を合わせた  でも、それからまた、眼を彷徨わせてしまう
何?  ツウ、愛してるよ
僕も愛してる…から、その……
言って  言わなかったらしてあげない
……キス、して欲しい
本当、恥ずかしくて死にそうって云う兄さん、可愛いよね
キスだけ?
っ……インの意地悪…
あは、ごめんごめん  ちょっと意地悪過ぎた?  でも、俺意地悪だもん、仕様が無いよ
軽く音を立てて頬にキスを落す  それからちょっと視線を絡めて、どちらとも無く接吻した
今度は本物だよ、ツウ
ふふ、嬉しい
もう一度唇を重ねて、そのままベッドに倒れ込んだ