TheRose

パジー編/R18

ひろわれる

日差しが強い、とパジーは思った。
昨晩の客のプレイが重く体力を削られている。
一度倉庫代わりの部屋に戻って縄の後が見えない服にして食事はしたが、明るい内から外に出るのは辛かった。
服と擦れて手首と足首が痛い。
流血沙汰や医者に厄介にならないプレイならばパジーは基本的に許可してしまう。
ベッドに縛り付けられ玩具で責められながら背を鞭打たれた。
結局本番は無しでプレイの割には損だった。
しかも気を失って後払い分を取り損ねたので客を探したい。
荷物も漁られていて、前払い分を途中で置いてきた事だけは行幸だった。
比較的治安の良い裏通りを歩いていると呼び止められた。
どうせ覚えていない、と思いながら振り返ったパジーは少し驚いた。
パジーが覚えている数少ない人物の内の一人、ヤンだ。
「……こんな場所に居るの珍しいね」
ヤンならば娼婦や男娼が群れる通りに居なくても、相手に困らないだろうと暗に言う。
「オレでも手っ取り早くヤりたい時はあるんだヨ」
浅く被ったフードを落とされてパジーは眩しさに目を細めた。
「今晩は未だ空いてる?」
「空いてるけど、疲れてるから」
見上げるとヤンの手が伸びてきて目の下にうっすら出来た隈をなぞる。
「イイよ、おいで」
ヤンは彼の弟程目立たないが、それでも何処か人を惹きつける。
横に並び歩きながらすれ違い様に小さく悪態を吐かれて、暫くは来ない方が良いかなと思った。


暖かいスープとパンを胃に収めながら、向かい側に座るヤンをちらりと見る。
にっこり笑みを浮かべてゆっくり食べろ、とヤンは言った。
少食なパジーにとっては十分過ぎる量だった。
昨晩の痕跡は服に隠れている筈なのに、バレているのだろうか。
それ程体調が悪そうに見えたのか。
「パジーは何着ても似合うな」
パンを咥えたまま首を傾ぐ。
「オレなら細いから身体に沿う服、肌が綺麗だから露出させる。でも今日の服も似合ってるヨ」
大きめの長袖のパーカーに、一見スカートに見える程裾の広い膝下のズボンにロングブーツ。
脛が少し出ているだけで、肌は殆ど出ていない。
他人の痕を残したままヤンと身体を重ねた事はあるが、明かしていない今は微かに罪悪感を覚える。
「ん?その服嫌いだった?」
「別に、そうじゃない」
眼を逸らしたパジーにヤンが問う。
他の誰もパジーの身を案じる事はないのに、ヤンは口を出す。
その点でパジーはヤンが苦手だ。
「そうだよなァ、パジーに好き嫌いは基本的に無ェもんな」
結局、温かい食事と部屋で気付いたら眠ってしまっていた。


パジーは裸足のまま部屋の主を探して歩き回った。
半端な時間に眠ってしまった為に夜中を少し回った頃だ。
バスルームから音が響いていて軽くノックをすると、髪から雫を落としながらヤンが顔を出した。
「よく眠れたか?」
頷くパジーの頭を濡れた手で撫でて笑う。
「ヤる?」
問うとヤンはパジーの顔を覗き込んで顔色を見て頷いた。
やっぱり体調が悪いのはバレていた。
「一緒に風呂入ろうって言いたいトコだが、もう出るから待ってろ。机の上の菓子とか食ってイイからな」


ソファで貰い物らしいフィナンシェを食べているとヤンが上裸で肩にタオルを掛けて出てきた。
「パジー、髪拭いて」
パジーの横に座ると肩のタオルを渡す。
受け取って膝立ちになり髪を拭き始めるとヤンの手がパーカーの裾から入り込んだ。
小さく震えてパジーの手が止まる。
「乾いた?」
解ってるくせに、と思いながら首を横に振った。
続けて、という言葉と共に手が進む。
脇腹や背を這う手から意識を逸らして髪を拭くのに集中しようとした。
だいぶ髪が乾いてくるとヤンは空いていた手をズボンの裾から滑り込ませる。
「や、ん…」
ゆったりとしたデザインのせいで太腿がまさぐられる。
力が抜けてヤンに寄りかかった。
食まれつつ軽くピアスを引かれて痛みから逃れようと息を吐く。
ヤンの舌と手に翻弄されている間に頭上で腕を奪われたタオルに縛られてしまった。
とん、と倒されてソファに寝転ぶとだぼついたパーカーもズボンも捲り上がる。
顕になった太腿に唇を押し当てられパジーは小さく震えた。
「でかい服もイイな」
着衣のまま顕になる肌は普段よりも扇情的だ。
足を捕らえて上げるとパジーの視界で足首にキスを落とす。
未だ赤く痕が残るそこに上からキスマークを刻んだ。
「酷くされたのは昨日か?ったく、布挟めば傷にならねェのに」
縄の痕に舌が這い、ヒリヒリと痛む。
「っ、あ」
逃れようともがいて手首の傷が服に擦れて涙が浮かんだ。
足を肩に掛け身体を寄せると縫い閉じた瞼から滲んだ涙を舐める。
腰が浮いてパーカーの裾が余計に上がった。
「暴れるなよ」
何故、と思う前に抱え上げられて身体を固くする。
縛られていて動かせない手の変わりに足をヤンに巻きつけると、ヤンは笑ってパジーの髪にキスを落とした。


「ぃあ、はふ…んぁあ、あ、っあ」
ぐちゅんと音を立てて深く抉られパジーは背を逸らした。
腕が拘束されたままで肩で身体を支え、腰を持ち上げられている。
パーカーもズボンも下着も中途半端に脱がされただけで、動きを阻害して辛い。
「打たれた痕が濃くなってるゼ?」
白い肌に赤い線が何本か走っていた。
体温が上がった為か赤く浮き出て見える鞭の痕を細かいキスがを辿る。
「っ、ヤン、もうイっちゃ……」
シーツと先端が銀糸で繋がる。
擦りつけてでも刺激が欲しいのにヤンは許さない。
「もうチョット我慢」
根本を閉めてヤンが意地悪く笑った。
いやいやと首を振るパジーの喉をくすぐりつつ責め立てる。
「パジー、何処にぶっかけて欲しい?」
快楽に堕ちた意識が浮上する。
緩まない責めの中、投げられた言葉を必死に理解する。
「い、ふッ、あっ出して、おく、ぃあっア」
ビクンと身体が跳ね視界が白に染まった。
また、気絶する。
昨晩は不安しか無かったのに、心地良い。



ちゃぷんという音と揺れる感覚に眼が覚める。
「おはよう、パジー」
頷くとヤンは微笑んで頭を撫でた。
周囲に眼をやると見覚えのある浴室だ。
パジーの部屋の風呂は広く洗い場と湯船のどちらもある。
「昼過ぎ迄休んでいけよ」
首を傾げれば抱枕になれと言う。
「あと風呂出たら傷の治療な」
「放っといても治る」
「ずっと腕の拘束もしてたから肩のストレッチもしような」
パジーの言葉を無視したヤンに大きく溜息を吐いて湯船の端に頭を乗せた。
ヤンは優し過ぎる、恋人にすれば良いのに。
複数しか愛せないヤンに恋人が出来る事はないけど。
ボクに優しいのもその一端で、溺愛している双子の弟と歳が近くて少し親しいから。
「食事と寝る場所があるなら、ボクはヤンの自由だ」
「もうチョット甘えてもイイのになァ。でもそういう割り切ってるトコも好きヨ」
ヤンと金のやり取りはした事がない、他の事で十分過ぎる程に尽くされる。
温かい食事に寝心地の良いベッド、時々服やアクセサリー。
最高のセックスにアフターフォローも完璧で粘着質な面も無い。
「他の客もヤンくらいに割りきってくれれば良いんだけど」
パジーは他人の顔など滅多に覚えない程興味が無いのに、時折恋人面する客や独占しようとする客が居て困る。
「またストーカー?」
ヤンが苦笑して湯が揺れた。
「ボクなんかの何処が良いんだか」
酷い時は裏で手を回して処理するが金が掛かる。
どれも元は男娼である自分を買っていたくせに、どうしてギブアンドテイクだと解らないのか。
「パジーは綺麗だヨ。壊れてるから綺麗」
壊れているのは理解出来るがパジーは首を傾げた。
きっと、好き嫌いが解らないから愛が解らないから、綺麗が解らない。
それでもマンションの住人は綺麗だと思える。
「パジーに理解しろってのは無理だろォな」
縫い閉じた瞼に軽いキスを送って、逆上せるとパジーを上がらせた。