人_狼_ゲーム・セカンド

本編/ネタバレ無

0h:game start

 クリーム色の壁に囲まれた部屋には扉が無かった。円形に安っぽい椅子が十脚並んでいる。
「は、何コレ?」
「なになに、おーじサマが無茶した?」
「何でも僕のせいにするな、チェシャ猫。知らないヤツまでどうこう出来ないっての」
金髪碧眼の少年が、紫色の猫耳尾の青年に言い返した。少年が既知の面々を確認し、もう一方で同じように戸惑っている彼等に目を向けた。
「ああ”?何見てんだよ」
左右非対称の装いをした少年が中指を突き立てる。喧嘩を売られたと少年が動こうとして、白髪兎耳の少年に止められる。
「ダイヤ様、駄目ですよ!」
喧嘩を売った少年も背の低い少年に止められていた。その向こうの白っぽい猫耳を持った青年が騒ぐ二人を挟んで少し潰れたシルクハットを被った青年を見詰めていた。帽子の青年の横で茶髪に兎耳の青年が首を傾げる。
「マッド、どうした?」
問われて青年が口を開こうとして、響いた音に口を閉じた。

『人狼なんて居るわけないじゃん。皆大袈裟だなあ』

 音源を探して、ほぼ全員が周囲を見渡す。その中、白っぽい猫耳の青年は落ち着いて椅子に座った。彼を知っているらしい者が怪訝な表情を浮かべる。

『よく集まってくれました、ゲームをして貰います』

ざわりと空気が声で濁る。しかし一人落ち着いているカットが黙らせた。

『村人側と人狼側に別れて殺し合って貰います。負ければ死、勝利陣営は生き返れるので頑張りましょう。各々の勝利条件は、村人側は人狼全員処刑です。村人が人狼と同数以下になると人狼側の勝利です。
 君等十三人の中には村人が六人、人狼が三人、それから占い師と霊能者、狩人、狂人が一人ずつ居ます。一時間毎に生存者全員で投票して一人を処刑する。その時、同時に人狼は任意の人間一人を襲撃して殺す事が出来ます。処刑の投票集計、実行、襲撃と共に占い師による占い、霊能者による霊視、狩人による護衛が行われます。この三者は村人側の配役です。占いは生存者が人間か人狼かを見極める事が出来ます。霊能者は死者が人間か人狼かを見極める事が出来ます。狩人は任意一人を襲撃から護衛する事が出来る。狂人は人間だが、勝利条件は人狼側勝利です。人狼同士は人間には聞こえない赤い言葉で意思疎通が出来ます。これに人間である狂人は知る事が出来ません。
 何か疑問がありましたらどうぞ。あと一時間でゲームが始まります。始まってからは質問を受け付けないので悪しからず』

 説明が始まると数人が椅子に座った。最初に座った青年が横縞に色の違う白っぽい尾を揺らす。
「一つ質問がある。本当に敗者は死ぬのか?」
彼を知っている者が目を向けた。
『死にますよ』
少し間を開けた返答に少し首を傾げて椅子の上で足を抱えた。
「ゲームが始まる前に各々の自己紹介を提案する」
「珍しいな」
隣に座っていた金髪にモノクルを掛けた男が笑い、賛成した。


 提案したのだからと言われて、青年は渋々といった感じで椅子から足を下ろした。ずっと無表情で思考がよく解らない。全体的に色が薄い事と酷い隈のせいで不健康そうだ。
「カット・チェーシャー。カットで良い。知り合いはハーレ・マルチェとビクター・シェリー」
短い前下りボブの髪に、大きな猫耳と尾は白に近い紫の横縞模様で、両耳にはピアス、尾には飾り鎖が撒いてある。肩や腹が出ているので露出が高い印象だ。
 隣に座った男が長い黒マントを脱ぎ首を傾げた。モノクルに触れて更に首を傾ぐ。前髪は長く後ろは切り揃えられた金髪、モノクルを右にしていて空色の瞳が知的だ。マントは椅子の背に掛けられ、白いワイシャツと黒いスラックスを少しラフに着ている。
「オレがビクター・シェリーだ。シェリー博士と呼べ。知人は言うべきか?カット・チェーシャー、ハーレ・マルチェ。ヴァンピル・ムロニは顔を知っている程度だな。ところで、質問だ。力が使えないのだがどういう事だ?」
『ゲームに支障を来す能力の使用は制限しています』
成程、とビクターは呟いて次を促した。
 ビクターから一つ跳んだ席に座っていた青年が軽く手を挙げて注意を引いた。肩口の緩いウェーブの髪が軽い印象を与える。然程長くはない兎耳と緑っぽい瞳が人懐っこく感じさせる。服は白黒で纏めつつも細かい気配りがされてお洒落だ。
「さっきから名前出てるハーレ・マルチェってオレね。よろしく。他の知り合いはハーツェ・メアツ、コバルト・オーガ、ハーフの三人。サンは一方的に少し知ってるだけだな」
言われて白髪に角を覗かせる青年が少し首を傾げ、隣に座っていた紺色の髪の兎耳の青年が軽く睨んだ。
 ハーレとビクターの間に座っていた黒髪の青年がちらりとハーレに目を向ける。艶やかな黒髪と口元を隠す膝丈のコートのせいで真黒い。
「ヴァンピル・ムロニ。僕はシェリー博士の事知らない、忘れてるだけかもしれないけど」
終わり、と言ってハーレの向こうに目を向ける。
 ヴァンの隣はハーレと睨み合った兎耳の青年だ。黒い瞳に紺色の少し長い髪が少し幼く見せるが何処か爽やかな印象がある。ハーレとは異なりカジュアルだが、こちらも細かやかなお洒落をしていた。
「順番敵には俺かな。ハーツェ・メアツ。知り合いはほぼハーレと同じ。サンとは親しく、ヴァンは名前を知っている程度。他もハーレ程親しくはないかな」
 促されて隣の青年が頷く。こめかみ辺りから生えているのか柔らかな白髪に角が覗いている。赤い瞳が白髪の向こうにちらりと覗いた。真黒いスーツをきっちり着ている。
「惨。ハーツェとは親しいが、他は知らない」
次は、と隣を見るが先にカットの隣に座っている既に名前が出た二人が名乗り出た。
 カットの隣に座っていたのは先程喧嘩を売った左右非対称の少年だ。右は白髪に黒目、左は濃灰の髪に白銀の瞳だ。左にボロボロの蝙蝠のような羽が伸びていてピアスのような飾りが幾つか付いている。服も左右非対称なデザインだ。
「ハーフ。ハーレとハーツェは知ってる。あと、一方的らしくて残念だけどカットさんも知ってる」
カットによろしく、と手を振るがカットは興味無さそうだ。しかしハーフはめげない、カットが他人とあまり関わらないのを知っている。
 隣の背の小さい少年も少し派手な容姿をしている。前髪は斜め一直線に切られたショートで頭頂部は白、毛先は青のグラデーションだ。服装は主に黒だが装飾過多で、背が小さい為余計にごちゃごちゃした印象を受ける。黒の細長い尾がゆらりと揺れる。先には尖った三角形の刺のようなものが付いていた。
「コバルト・オーガ。ハーレ、ハーツェはそこそこ親しい。シェリー博士とムロニ氏、ハーフ、サンの名前は知ってる」
外観は奇抜だが、姿勢は丁寧だ。
 金髪碧眼の少年が知り合いしか残っていないのに気付き、手際良く指示する。一番背の低い白髪に長い兎耳が覗いている少年がやや強引な金髪の少年の指示に小さく溜息を吐きながら周囲を見渡した。
「ボクは時計を持った白兎。皆勝手に呼ぶから名前は無い。ややこしいからこの場では全員にラビって呼ばせる。知り合いは残り全員」
身長を気にしているのか靴の底が厚い。コバルトもやや靴で身長を嵩増ししているが、結局ラビの方が低かった。
 だぼだぼの服の下に隠れた手と、派手な色の尾を振って青年が注目を集める。赤紫の髪に猫耳と尾がよく動く。
「チェシャ猫のチェシャ。よろしくー。こっち全員知ってるケド、仲良くはねェな。嫌われてるんだ、ぎゃは」
にたりと笑む口元と妖しく歪んだ眼で感情があまり読めなかった。
 次と示された青年は軽く俯いていて口元しか見えない。細身で身長はあるが内気な様だ。少し潰れたシルクハットと長い前髪のせいで目は完全に隠れてしまっている。
「初めまして、茶会を開く一人、狂った帽子屋です。マッドと呼んで下さい」
柔らかい笑みや仕草と丁寧な口調の為、優しい印象を受けた。先のチェシャとの差が大きい事も理由の一つにあるかもしれない。
 無事に自己紹介を終え、ほっとした様子のマッドの肩を軽く叩いて青年が笑いかける。歳はチェシャやマッドと同程度に見えるが不思議とマッドの様子はそれ以上の信頼を含んでいるように見えた。茶髪のショートに短い兎耳を揺らして少し意地悪そうな笑みを浮かべる。
「俺も茶会の一員で三月兎。そうだな、マーチとでも呼んでくれ。知り合いはこっち側全員。外見は同じくらいかもしれねえけど、先に挨拶した三人は俺が育てた。ガキの頃の事ならなんでも知ってるぜ」
ラビがあからさまに嫌な顔をして、チェシャが独特の笑みを広げた。マッドが気を許していたのはマーチが育て親で同じ茶会のメンバーだからだろう。
マーチが金髪碧眼の少年に眼を向け、プレッシャーを与えるように言う。
「さって、最後だぜ?」
全員の視線を受けて少年は鼻で笑って、尊大に腕を組むと軽く顎を上げた。
「コイツ等の物語の中心であり世界の王、絶対者。ダイヤって呼ぶのを許可してやろう。此処では王じゃないからな」
ダイヤの妥協にチェシャが笑い、ラビが肩を竦める。ダイヤらしくないようでいて、ダイヤらしいと思ったのが態度に出てしまったのだ。ダイヤはチェシャを無視してラビの名を低い声で呼び、謝罪させる。それをマーチが笑った。

 自己紹介で緩んだ緊張が再び響いた言葉で引き締まる。
『もう直ぐゲームが始まります。足元の時計は一時間で一周します、参考までに』
殆ど全員が足元を見た。円形に並ぶ椅子が文字盤の枠になるように、一本の長い針の絵がじわじわと遅いような早いような微妙な速度で進んでいる。文字盤は無いのに、何故か境が何処にあるのか解った。夜明けを知らせる鐘が鳴る直前、緊張で空気が止まった気がした。