TheRose

ツウイン編/雰囲気モノ/R18

重依存 01

初めて切ったのは何時だったか…そう思い返して、久しぶりに切り込んだ腕が痛く感じた
幼い自分を思い出して思わず笑みが漏れる
あの時なら、きっと、未だ罪も軽かったのだろう
もう、僕は重罪人だ

あんな小さい頃ですら、しっかりと解っていた、兄弟同士で愛するのがいけない事なのだと
それ位は解る歳になっていた
……なのに
僕はインを愛してしまった
インしか愛せなかった
気付いたらインしか見ていない
初恋も無く、インに惚れ込んだ
偏愛主義ばかりの兄姉に囲まれ、兄姉の保持している書物に幼い頃から触れていた僕は、成長する過程で兄弟相手に恋愛する様な錯覚をする事が在ると云うのも知っていたし、成長すれば、それが幻想だと解るらしいと文字の羅列で知っていた
知っていたけれど、解ってはいなかった
僕は兄弟愛の罪の重さに耐え切れなかった
僕は僕を許せなかった
僕は死ななきゃいけないんだ、と思った
首を吊るなんて事は思い付かなかった
跳び下り自殺が出来るような場所はあの頃の僕の世界には無かった
服毒自殺なんてものは知らなかった
だから、首を切って死のうと思った
台所は何時も兄さんや姉さんが居たから駄目だった
だからスー兄さんの部屋へこっそりと入って、見た事も無い恐ろしい物ばかり並んでいるのにびくつきながら、一本のナイフを持ち出した
インには見付かりたくないと思って、インとかくれんぼをしている時、僕が鬼の時に決行した
首はなかなか切るのが難しかった
蚯蚓腫れや赤い線が付くばかりで、深くは切れなかった
ぱっと眼に入った手首に、青白い血管が見えて、ああここだ、と思ったのを覚えてる
ベッドの上に座って、手首を足の上に置いて、右手で、左手首にナイフを当てて、体重を掛けた
未だ、ナイフを持ったのは初めてで、兄姉が使っているのは見ていたけれど、押すよりも引く方が切れるなんて知らなかった
なかなか、死ななくて、途中で物凄く怖くなって、洗面台で真赤になった手を洗った
白い洗面台と、水に溶けて流れていく赤が、何時迄も続くんじゃないかと必死に、泣きながら洗った
冷たい水なんかで洗い流していても血が止まるなんて事は無いのに
今思うと、よく死ななかったな、とさえ思う
そうしているうちに、意識が朦朧としてきて、その後はよく覚えていない

次に眼覚めた時、視界の全てを泣き顔のインが埋めていて、僕が起きたのに気付くと、泣きじゃくりながら僕を怒った
貧血を起こしていた僕を何度も叩き縋って、泣いて、怒った
後から聞いた所に依ると、そわそわしていたインを見て、ウィザー兄さんが占いで落ち着かせようとして、逆に悪い結果が出たとか
実際は本当なのかは解らないけど、倒れている僕を見付けたのはウィザー兄さんだった
一緒にインも来ていたらしいのだけれど、ウィザー兄さんが部屋に入れなかったらしい
あの時、館に居たのはインと、ウィザー兄さんと、ラン姉さん、ヤン兄さん、スー兄さんにムー兄さんだった
スー兄さんもムー兄さんも館に居ても、兄さん達から会いに来てくれない限り会えないし、会いに来なかったのでどう思っていたのかは解らない
ラン姐さんとヤン兄さんは呆れていた
僕の事を心配していたのはウィザー兄さんとインだけだった
インは寧ろ、怒っていた方が多かったかもしれないけれど
でも、暖かい腕で、ぎゅっと抱きしめてくれた
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