TheRose

……イン？　　どうしたの？
…えっと、その……
中、おいでよ

兄さんが部屋を出て行った時に交わした別れの言葉以来、一ヶ月ぶり程だった
後にも先にも、これ以上お互いに言葉を交わさないなんて事は無いだろう
あの頃の兄さんの部屋にも、俺の部屋にも、ベッド以外の家具は無かった
クロゼットが備え付けであったし、部屋に机と椅子がある必要は無かった　　部屋には寝に帰るぐらいしか居なかったから

やっぱり、いす、ほしいね
…うん

ヤン兄はああ言ったけど、そんな事無理だって思った
ずっと、何十分もその後沈黙が続いた　　本当なら夕食で呼ばれる筈の時間になっていたが、誰も来なかった
きっと、ヤン兄が手を回していたんだと思う


部屋に引き篭もって、一ヶ月位経った日だった
夕食の時間の少し前に、インが部屋に来た
ずっと、僕を避けていたインが
部屋に入れて、少しだけ言葉を交わして、その後、何にも喋らずにそのまま時は流れた



はっきり云って、我慢の限界だったのだと思う



イン、ぼくね、切ったの、ほんとうに死にたかったからじゃないんだ
……え？
ぼくがインといっしょにいたらいけなかったから、逃げただけなの
(やっぱり兄さんはおれのこときら…)
あっ　　インのことがきらいだからじゃないんだよ　　ぼくがわるいこだから、だめなの
……
ごめんね、イン　　しんぱいさせちゃって、ごめんね
(泣きたくないのに…)
兄さん、泣かないでよ
(泣きたくないのに)
インこそ、泣いてるじゃない
だって、おれ、兄さんにうそついちゃったから
…え？
かがみわったのね、おれだよ　　落しちゃったんじゃないんだ
(きっとぼくににた顔が見たくなかっ…)
いろんなのにしばられたおれを見るのがいやだったんだ
……
ずっと、しゃべってなくて、ごめん　　兄さんをさけててごめん
いいよ、そんなこと　　泣かないで
(これじゃ兄さんの顔が見えない)
(これじゃあインの顔が見えない)
兄さん……
なに？
おれ、兄さんが大好き
…うん
(でも、それは、ぼくの好きと違う)
おれ、兄さんのこと、あいしてるよ　　ほんとに、あいしてる　　だれよりも
イン…
ほんとに、兄さんがだれかのになっちゃうのなんてやだ　　おれの兄さんでいて　　兄さんがいなくなっちゃったらおれはおれじゃなくなっちゃう
……イン、ぼくもインのこと大好きだよ　　大好きすぎて、好きなんて言葉じゃあらわせないぐらい、大好き
じゃあ…
(でも…)
…なんで、おれをさけるの？
だって、兄弟同士の愛はいけないことだよ　　だめなんだ　　ゆるしてもらえない
いいじゃん、いけなくても　　いいじゃん、だれかにゆるしてもらえなくても　　おれは兄さんの全てをするすよ　　だから、おねがい
…………
近くにいてよ、兄さん　　じゃないとおれは生きていけない
ぼくだって、そうだよ　　インなしじゃ、生きられない　　だから…
いいよ、兄さん　　死なないで　　おれを殺さないで　　いっしょに生きようよ
イン…
ね、兄さん
…うん