TheRose

ツウイン編/雰囲気モノ/R18

重依存 03

ウィザー兄さんはしつこく、何で自傷なんかしたの、と問うたがそんな事言える訳もなく、応急処置的に、僕を一人にさせないようにする為に、暫く僕の部屋は入れなくなった
きっと、あの血の跡とかの処理もあったんだと思う
結局僕は、インと四六時中居る事になった
インを愛して、インしか愛せなくて、その罪に悩んで、インから離れようとして死のうとしたのに

兄さん、そんな事しないで

夜中にそう寝言を言いながら涙を流すインに、何度も心の中で謝った


ウィザー兄は兄さんがまた自傷しないようにと、俺の部屋へと住まわせた
兄さんへの愛を止められなくなった俺に、一番の罰だった
眼の前に在るのに触れられない

イン、ごめんね

夜は寝られないのか、昼寝の時間が長くなった兄さんは何度も夢の中で謝っていた
寧ろ謝るのは俺だ



部屋に居る間は余り言葉を交わさなかった



その後からだった、鏡が見れなくなったのは
鏡の中の俺は、兄さんとそっくりなのに、全然違くて、兄さんを思い出して、眼の前に似てるのが居るのに触れられない事に発狂しそうになる
鏡の中の俺は、罪に縛られ、愛に捕らわれた、兄さんに似て非なるものにしか見えなかった
兄さんの紛いもの
初めてのは、鏡を外して、床に投げ付け叩き割った
粉々になって、何を映しているのか解らなくなる迄、割った
未だ、兄さんが部屋に居るのに、鏡をがむしゃらに割って、後悔した
兄さんに、初めて嘘を吐いた
嘘だと気付いていても、そっか、と笑った
兄さんは新しい鏡を用意しようかとも言わなかった

一週間、兄さんとずっと、何をするのも一緒にして、ウィザー兄は兄さんの部屋の鍵を開けた
やっと、四六時中自分を制して、罪を意識する事もなくなった
兄さんは荷物を纏めて隣の部屋へと帰っていった
俺は、何かが怖くてそれから兄さんを避けた


一週間、ウィザー兄さんは僕をインの下へと置いた
何をするのもずっと一緒
一週間は長かった
沢山、インに話したい事とか、在ったのに、絶対に言えなくて、一緒に居るのが辛かった
愛してる
唯、その一言なのに、たった一言が重くて、苦しかった
我慢し続ける事で、罪がどんどんと重く圧し掛かってきて、刃物を探そうとした
でも、ウィザー兄さんは徹底して物を切る事が出来そうな物は一切部屋に置かせなかった
刃物は勿論、割物、フォーク、ナイフ、箸、ペン…とあらゆる凶器を部屋から取り去った
薬類も無かった
紐類もかなり没収された
太かったり、伸びたりする紐は、試してみても少し苦しくなるだけで、インに見付かりそうになって諦めた
インの泣く顔は見たくない
出来るならインに見られずに死にたい
死にかけてインと会うなんて、もう絶対に嫌だ
僕の部屋が開けられて、荷物を纏めて戻ると、僕は部屋から余り出なくなった


兄さんが部屋に居て暫く出なさそうなのを確認してから、館の中をうろついていると、久しぶりにヤン兄に会った

何、最近一緒に居ないな、お前等?
……
ツウの奴、リスカしたんだって?  それも流水に手突っ込んで、貧血になってぶっ倒れたとか  かかっ  アイツもバカだねー
……
お前も最近鏡ダメなんだって?  何枚割ったんだ?
……
ほんっと、お前等ってワケ解んねーよな  そっくりで、髪染めてなかったら見分けつかないくせに、どっか全然違えーのな
……
いっつもウザい程一緒にくっ付いてたくせに、何やってんだ?  ま、好きにしろよ  んじゃな、オレは女来るからー

今思うと餓鬼に何言ってんだ、と思う台詞を兄姉は普通に言った
ヤン兄はその筆頭だったけど、俺はそのあから様でありながら、遠回しに様子を見てくるヤン兄は嫌いじゃなかった
でも、好きじゃない、兄さん以外は

お、そうだそうだ

そう、廊下を曲がってからまたヤン兄は戻ってきた

お前、オレは兄弟ん中じゃあバカかもしれねえが、話聞く位ならしてやれんぞ?  ん?
……女の人来るんじゃなかったの?
あー…んなのはどーでも良い、だろ?  あんなの何時だって来るんだし、街行きゃあ簡単に引っ掛かるんだ  オレの部屋…って今散らかり過ぎて扉が上手く開かねえんだった  どっか空き部屋にでも行くか?

兄さんが手首を切った事について聞かれて、何も聞いてないと答えると、ヤン兄は大きく口を開けてはあ?と言った

お前等あんだけ仲良いくせに、何やってんだ?
……
ったく、世話の掛かる弟だなあ、お前等は  喧嘩なんかした事ねーだろ?
…おやつとか
んなの喧嘩の内に入らねーよ、阿呆  オレなんか姐さんと命賭けた喧嘩したぞ  で、何で話さねえんだよ
……
互いに話さないってのは可笑しいんじゃね?  ツウが話さないってのは解るけど、何でお前は話し掛けないんだよ?  ツウの事だから話し掛ければ会話にはなるだろ
…………………………話したら、止まらなくなっちゃいそうだから
何が?

ずっと、溜まっていたものが溢れ出て、拾っても拾ってもどんどんと手からも俺からも零れていく様だった

ね、おれ可笑しいのかな?
は?  何言ってんの?
おれ、兄さんのこと大好き  おれよりもずっと、だれよりも  兄さんが生きて、おれの近くにいてほしい  兄さんがわらっておれのほうを向いていてほしい  兄さんにさわりたい  兄さんにさわってもらいたい  兄さんとキスしたい  兄さんとずっといっしょにいたい  兄さんがおれのじゃないといやだ  だめだよ、何考えても、兄さんしか出てこないんだ  でも、兄さんはそんなことない  兄さんはちゃんと自分を愛せてる  おれは、自分なんかどうでもいい  兄さんだけで

泣きながらそう捲くし立てた俺をヤン兄がどう見ていたのかは知らない
涙で視界が歪んでいたし、それどころじゃなかった

あー…本当、お前等ってマジ面倒なのな
っつ  ひっく  でも、おれ兄さんが…
もう、良いから、な?  泣くなって
うぅっ
偏愛兄弟の中でも、ある意味頂点だな、お前
ぐす…  ひっく
良いんじゃねーの、それ言えば
…………え?
館ん中じゃあ、どんな愛の容も許されてるだろおが、バカか?
うっ  でも…
だからバカだっつうんだよ  男同士だったら子供出来ねーし  それ以前に未だツウがお前の事どう思ってるのか解らねえし

そう能天気に笑うと、俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でて、泣き腫らして未だ涙の止まらない俺の手を引いて部屋を出た
途中ですれ違った兄姉に、何泣かせてんの、と言われても笑ってやりすごしてくれた
ヤン兄は、普段はあまり会わないし、喋らないし、何時も女と居る兄だったが、兄姉の中では珍しく兄弟に気を配る
兄弟の下の方で、今の所、弟が兄さんと俺以外に居ないからかもしれない
ヤン兄は俺を兄さんの部屋の前まで連れてくると、扉をノックして、何も言わないで何処かへ行ってしまった
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