TheRose

ツウイン編/雰囲気モノ/R18

遊び 02

ヤンが、別の棟迄行き、やっと辿り着いた部屋の扉を軽く叩く。
僕、此処初めて来たよ
俺も  散々探検したと思ってたのになァ
兄さんや姉さんだけじゃなくて館も増殖してるんじゃないの?
…在り得そうで怖い
ヤンが何度も扉をノックしている間に双子はそんなやり取りをしていた。
アルティ兄貴ー  居ねえの?  オレだよ、ヤンさー  兄貴の知らない弟連れてきたんだけどー
何度もそう繰り返して暫くすると、扉がゆっくりと開き、面倒そうな顔のヤンよりもずっと年上の男が現れた。
やっぱ居んじゃん、兄貴
絵の整理をしていた  で、何だ?
だーかーらーっ  新しい弟紹介しに来てやったんよぉ  アルティの兄貴が何処か旅出てから少しして、館に来た双子
双子?
ってか、オレの後ろに居るし
そうくるりとヤンが振り返ると、二人はにっこりと笑ってそれぞれ自己紹介をする。
初めまして、アルティ兄さん  僕はツウ
初めまして、アルティ兄  俺はイン
一応、僕が兄って事になってるけど
一回、混ぜこぜになっちまってるから、本当か解んないんだよな
それにヤンが付け加える。
世話してる間にどっちがどっちか解んなくなって、ランの姐さんが髪染めさせたから解るけど、蒼いのがツウ、白いのがイン  ついでにお互い眼ぇ抉ってるから左眼が無いのがツウ、右眼が無いのがイン  自傷癖が有って手錠してんのがツウ、鏡割んのがイン  それからおまけに、今玩具付けてるので、白がツウ、黒がイン
毎回指差しながら説明する。しかし、その殆どをアルティは聞いていなかった。
まるで堕天使が地に誤って落ちた天使を誘惑しているようだな
そう呟き、部屋に戻るとスケッチブックと鉛筆を持って来て、さらさらとデッサンを始める。
あーやっぱりなぁー
その姿を見て、ヤンがけたけたと笑いながら双子に眼を移す。
かかっ  お前等暫くアルティ兄貴の視界から外れられないぜ?
兄の言っている意味が解らずに二人して首を傾げる。
ま、試しにどっか行ってみろよ  そうだな、二人で逆進んでみ
双子は顔を見合わせて首を捻ったが、結局二人で背を合わせて歩き始める。が、しかし……。
えっ!?
はァ!?
途中でぴたりとその足が止まった。
な、ほらな
ヤンがけたたましく、腹を抱えて笑いながら言う。
アルティの兄貴の愛さ、それがっ  あーっ  可笑しいっ  久しぶりに見たぜ!  って当たり前か  兄貴、帰ってきたばっかりだし
ツウは少し、それ以上進まないか試した後、その場に立ち、インがツウ以上に抵抗しているのを眺めた。
っつ  何で進まねェんだよ!
だから兄貴の愛だっつてんだろー  バカだなぁ、インは
意味解んねェよ!  どうやって止めてんだって!
どうやっても糞もねえんだよ、バぁカ  愛だよ、愛  愛が在れば何だって出来るんだよ
そう馬鹿だと繰り返し、笑う。そしてちらりとアルティを見ると、インに眼を戻した。丁度、その時、インが、無理矢理進もうとしていた体勢のまま、前に倒れ込む。
っ痛…  ったく何なんだよ
倒れたインの下にツウが駆け寄りしゃがむ。
イン、大丈夫?
大丈夫、大丈夫  ってかマジ、ウィザー兄より超常的
インはそう言って立ち上がる。それに続いてツウも立ち上がり、二人でアルティに向く。
で、名は何と云ったかな
今更、な兄に双子は眼を合わせる。
俺がイン
僕がツウ
そうか
軽く手元のスケッチブックに鉛筆を走らせ名を書き留める。
アルティの兄貴  そいつ等、同性愛者な  ってか、兄弟愛?  ラブラブだから、そいつ等
そうか
スケッチブックを閉じると、双子にじっと視線を合わせたまま動かない。
えっと…
これから宜しく
お願いします
二人揃ってぺこりと頭を下げるが、兄は動じない。
その羽根は?
え?
その羽根はどうしたんだと
あ、これ?
インが嬉しそうに笑んで、ツウの羽根を摘み揺らす。
そうだ
インが僕に買ってきて…
兄さんが俺にも、て
ロザリオは?
俺にこの羽根と、蝙蝠の羽根買ったから、兄さんも二つって事で、ロザリオ
手錠は?
その…
自傷癖のせいだって言ったろ
ヤンが横やりを入れる。
手錠だけじゃないしね  でも、何か何時も付けてるんじゃん?
お前が持っているそれは?
アルティはインを示す。
ん?
インは首を捻り、ツウが代わりに答える。
僕の鎖だよ  殆ど何時も、無意識で持ってるから

あァ、これ  本当だ、何か持ってるし  気付いたら持ってんだよなー
此処に繋がるの
そう、首から提げているネックレスの様な弛んだチョーカーに下がる輪を指す。
そうか
基本的にツウは物質的に依存して、インは精神的に依存すんだよな
んー…  そうかも
言われてみれば、そうかも  でも兄さん、自分であんまり物買わないよね
そうだね、インに買ってもらった物ばかりかも
九割くらい?
うん、多分それ位  自分で買ってくるのなんて、医薬品と刃も…
兄さん
…ごめん
俺に内緒で刃物は買わないって約束しなかった?
ごめん  …この前買った
二人の兄の前である事を忘れて二人は真剣に話し合う。
何を?
……
ね、兄さん、俺との約束破る気?  兄さんに俺との約束破れるの?
…カッターだよ、カッター
それだけ?
…もう一つ、長いカッター  あと、果物ナイフと、包丁と、えっと、名前忘れちゃった…
どんなの?
ナイフとか、鋏とか、栓抜きとか、爪切とか色々付いてるちっちゃいやつ
……それで全部だよね
うん
…………多過ぎ
ごめん
インはツウを抱き寄せて、顔に掛かっている髪を退ける。
兄さん
うん
お願いだから
うん
俺は絶対に兄さんから離れない
うん
だから兄さんは俺との約束を守って
…うん
兄さん?
ごめん
何で、他の約束は全部守れるのに、こんな簡単な事が守れないの?  唯、刃物を買った時だけ俺に教えてって言ってるだけだよ?
…ごめん
薬まで教えろなんて言ってないんだよ?
…ごめん
ね、せめて言い訳ぐらいしてよ  じゃないと俺……
だって、だってインに心配させたくなくてっ
言ってくれない方が心配するよ
ごめん  今度は絶対に言うよ  買いに行く前にも、きっと
絶対?
絶対
じっと見詰め合って、接吻を交わそうとして、ヤンに邪魔される。
おーい、お二人さん  アルティの兄貴が悦んじゃうから
いや、そのまま続けて
ほら  っつか、そろそろ夕飯だってリーが呼ぶぞ
双子は廊下の窓から外を見て、そうか、と声を合わせた。
今日の夜ご飯、何だろうね?
何だろ
行こっか
そだな  じゃ、俺達先行くな
そうにっと笑んでツウの手を取り、兄二人を残して廊下を行く。それを見送ったヤンは小さく呟いた。
…そのまま行く気かよ……