ShortStory
人外/キメラxスライム
R18ショッキングピンクの幸福 (前)
ショッキングピンクの幸福( 後)
ショッキングピンクの幸福 その後(1)
ヤツの食べ方は道具を使っていて、綺麗だなと思う。比べてオレは丸呑みで、雑というか下品というか。同じ机で食事するのが憚れる。が、ヤツの望みなので、他の目線なんか気にしない。
屋敷の中に何人の召使が居るのか知らないが、オレが知ってるのは二人だけ。一人はニコニコしていて、天真爛漫。娼館の空気で育ったオレを彼女の視界に入れるのを躊躇うくらい純真。オレに関わったくらいで穢れる程柔らかな清らかさではないけど。
もう一人は爺さんで、こっちはお堅いヒト。実は機械なんじゃないかと思ってる。顔色だとか動きだとか、寸分狂い無く、何時も同じだ。
触手で手繰り寄せて体内に取り込んで溶かす。メイドさんの気遣いで肉を切ってから出してくれるようになったから、前みたいに身体に透けて肉が見える事態はあんまりなくなった。見えた所でヤツは気にしないが、爺に怒られる。
休日は庭でティータイム。外を知らないオレにとって、少し怖いけど安全な筈だから、楽しみな時間。
ガラステーブルの上の花瓶近くで遊ぶ蝶を目で追っていると突かれる。
邪魔するなと眼で訴えても無視。
「ビビッド、太った?」
自覚が無いので身体を傾ぐと、マットから掌に居場所が移る。マットはオレの体温が下がらない為だったりする。
もにゅもにゅと両手で揉まれて、形が歪む。気持ち悪い。
「言う程重くなってないんだけどなあ。艶が増したというか、張りというか」
飯が豪華になったからじゃね、と思うがヤツは気付かないらしい。
さっさと解放し欲しくて身体を揺らすと、思い出したようで下ろしてくれた。
「運動はしっかりしてるから肥満の心配は必要無いかな」
ニコリと笑ったヤツに内心舌打ちしつつ、触手を伸ばして下りた。
宮城官職のクセに、シモネタが酷くて困る。
芝生で身体の半分程が隠れた。チクチクするのは嫌いだが、日向で温かい土は気持ち良い。
飛び跳ねて移動していたら、突然ぱちぱちと固い何かが沢山飛んできた。
(うわ、あ、なに、なに)
パニック起こして触手があっちこっちに伸びる。
上から眺めていたプラツは直ぐに異変に気付いて声を掛けたが、ビビッドはそれどころではない。
逃げる、と焦って人型を取り走る。スライムで時間が掛かった距離は人型では数歩で。テーブルに手を付き、そのままスライムに戻って机に乗った。
「あーあ、植物に種子飛ばされて逃げ帰るなんて」
クスクス笑ったプラツに苛立ちを示して二回震える。
怖かったね、なんて言いながら少し食い込んでしまった種を撫でて取り除く。合間に身体を突っ込ませた植物の特性を説明した。
刺激すると種を飛ばすとか、知らないし。
(そもそも、しょくせいとかなにソレ)
「興味あれば本用意させるよ。そうだ、そろそろ届く筈なんだけど」
要らない、と身体を揺らそうとして爺が現れた。二人で居る時に邪魔する事は滅多に無いから珍しい。
よくプラツが読む本くらいの大きさの何かを机に置いて、また消える。
新しいモノに興味が湧いて人型になりつつ椅子に移動した。
「なにコレ」
好奇心で人型になったビビッドにプラツはニコリと笑う。
「コミニケーションボード。正式名称はどうだったかな。声の出せないヒトがこれで会話するんだって」
へえ、とボードを見ると文字らしきものが並んでい。それを指して言葉を作って会話するんだろうな、と思う。
「でもオレ、文字なんか読めねーよ?」
え、とプラツの動きが止まった。
「流石に会話出来ないと商売にならないから喋れるけど、読む必要なんかねーもん。売れっ子には時々手紙とかあるらしいけど、勿論届くワケないし」
金目のモノは店のモノ。金にならなければゴミか餌。
「思った以上に劣悪環境だな」
「オレにとっては当たり前だったから、別に怒る事じゃないって」
ビビッドは意味無いよ、と言わんばかりに机に頬を当ててプラツを見上げる。
「で、どーすんの。オレに文字覚えろってコト?」
爪の形はあるが固くはない指先でボードを弄った。並んだ文字の場所は入れ替えられるようになっている。
「勉強したくないなら、捨てよう」
即答にえ、とビビッドの手が止まる。
「文字って、音の形なんじゃねーの」
「まあ、普通に会話出来るからゼロから言語を学ぶよりは楽だろうけど、今迄勉強した事なんてないだろう」
うん、とビビッドは呆気無く応えつつ、弄る手を再開した。ビビッドからすれば、文字は絵のようなものにしか過ぎない。適当に並び替えて、崩してを繰り返す。
「でも、お前が居ない間はヒマだし」
好奇心の強さは自他共に認めている。但し飽きるのも早い。
「飽きる迄はしてもイイかなって。文字覚えたらヒマ潰すの困らなそうだし」
じっとプラツに見詰められ、手を止めた。居心地が悪い。
言いたい事があるなら言えば良い。
眼を逸らせば負けるような気がして見詰め返す。フと、気が緩むと頭を撫でられて、拍子抜けした。
なに、と遠慮無く撫でる手を退けつつビビッドは身体を起こす。
「俺が居ない間にお前と誰かが二人きりになるのだ、と考えていた」
冷たい声に柔らかい瞳。ビビッドは一瞬何を言われたのか理解出来ずに、きょとんと眼を丸くした。
「お前は俺のモノだ、ビビッド」
嫉妬した、と解った時に名を呼ばれて、固まる。
人型特有の息苦しさに、肺の動きが止まっていた事に気付いて深呼吸する。
執事サンやメイドちゃんに呼ばれるのは慣れた筈なのに、未だにコイツに呼ばれるのは慣れない。
じっと反応を観察する瞳から逃げたくなる。
疚しいコトはなくても、食べられそうだ。
「それに、字の読みくらい新しく雇わなくても爺と嬢で出来るだろう。あの二人に限ってお前とどうこうは無いからな」
草食動物の方が多いんじゃなかったのか、クソ。
「取り敢えず、飽きる迄はする」
ビビッドはそれだけ言うと、姿を戻しつつ庭に降りた。