ShortStory
人外/キメラxスライム
R18ショッキングピンクの幸福 (前)
ショッキングピンクの幸福( 後)
ショッキングピンクの幸福 その後(1)
ショッキングピンクの幸福 その後(2)
プラツの仕事は波がある。大量の機密情報の精査は、外部に持ち出せない為に篭って処理する事が多い。お蔭で、状況によっては即座対応が求められるので、仕事に掛りきりになる。しかし、休息も仕事の規定にあるので、拘束された分の休暇が纏まってくるのだ。
(今頃、寝てるかな)
元々趣味が無いプラツは身体を鍛える程度で、休暇は嬉しくもなんともなかった。が、今は違う。愛しい存在に会えない日々は辛い。
暫く帰れないと伝えさせたから、待たずに直ぐ寝てそうだけど。
素っ気無い態度を思いながら、それでも愛おしいな、と考えた。
はふう、と珍しく溜息を吐けば、部下が驚いて動きを一瞬止める。プラツの意識が向かない内に仕事を再開しつつ、背中でプラツの動向を探った。
疲れを見せない上司が疲れたのか、それとも悩みがあるのか。相談してくれなど言えないが、飛び火するのは怖い。
(そう、ツンツンさばさばしてるけど、案外ヒトを思いやる余裕もあるし)
可哀想な部下は上司のキメラが怖い。馬と牛と犬が混じっていて殆ど草食系だというが、本当は肉食系ではと勘ぐっている。鍛えぬかれた身体は肉食系には及ばない程小さいが、威圧感が半端無い。なにより瞳が愛らしさなど欠片も無く、獰猛だ。
(好奇心と男らしさを発揮して心配させられる事もよくあるけど、見守るのも悪くない)
部下に怯えられているとは気付かずにプラツは家に置いたビビッドを思い出す。
ペットのように愛しているわけではない。
確かに、未知に挑む様や成長する様子は微笑ましい。が、ペットに対してキスやセックスをしたいとは思わない。
(嫌がりつつ欲しがる淫乱。興奮すると桃色に染まる人型。唾液も精液も啜り尽くそうとする貪欲さ)
持ち前の記憶力の良さを発揮して、鮮明に姿を思い出す。
(あの、感じて仕様が無いと苛立ちながら快楽を満喫する喘ぎ声)
思い出した所で触れる事も声を聞く事も今は出来ない。
再び溜息を吐くと、今度こそ部下はビクリと震えた。
部下の態度で現実に思考を戻すと、室内で手を止めている者に激を飛ばしつつ、仕事を再会する。
(あれで、意外に可愛い物や甘味が好きだから、土産を見繕っていこう)
地図と配置図、金やヒトの流れの齟齬を直していく。既に精査された情報の修正、そして未来の予想、展望、可能性を考える。一番現実的で、また最悪な展開は。
室内の処理速度に意識を向けつつ、仕事の目処を付ける。前日辺りに帰ると連絡を入れよう、と次の休暇の長さを考えながら仕事を処理した。
久しぶりに自宅を踏み入れたのは早朝だった。
執事とメイド長が時間に関わらず出迎える。当たり前の事だ。風呂に入ると言いつつビビッドの居場所を尋ねた。
予定では夕方、早くとも今日の午後と伝えてあった。未だタオルケットに埋もれて眠っているビビッドをこっそり眺めて、風呂に向かった。
湯船に浸かりながら、仕事中確認していなかった部分の情勢を確認しつつ、もう片手では軽食を摘む。
お世辞を抜きにしても、我が家の料理は美味い。職場の食堂の不味さが問題だ。
休暇明けには軍警の方へ行くか。
柔らかなノックに顔を上げると、バスルームの戸が開いた。
「帰ってんの」
チラリとピンク色が見えて、途端に気分が上昇する。紙束を置いて手招きすれば湯気たっぷりの浴室にビビッドは入ってきた。
疲れている時は溺れると怖がるが、基本的にビビッドは風呂が好きだ。
「帰ってきたばっかだよ。起こしたかな」
さっき覗いたからと思いつつ、傍へ寄ったビビッドを引き寄せてキスする。擽ったそうに嫌がりつつも、求められる事は嫌いではない。
そのままさらに引き寄せればビビッドは大人しく服を同化させて風呂に入った。
控えめに入れていた湯が二人分の堆積で胸迄上がる。
「べつに、」
言い淀んだビビッドの頬を撫でるとナッツの味がする、と笑う。さっき摘んだからと横の皿を示すと、白い指先でナッツを摘む。
舌先にそれを乗せて目の前で揺らした。
プラツは誘いに乗って舌毎ナッツに食らいつく。柔く舌を噛むとヒクリと身体が震えた。
「噛まれるの、怖い?」
噛み砕きつつ問うとビビッドは少し考える。
「少し、だけ。前に身体噛み千切られたから、」
抉られても切られても痛くないけど、切断されると悶える程痛い、とビビッドの言葉を思い出す。
「草食獣の歯で噛み潰されたコトはないけど、犬歯が、少し。でも、刺さるのは気持ちイイ」
喉を曝け出すビビッドに腕を回して抱き寄せる。
見下ろす瞳は子供のようなのに、楽しそうに笑って期待する内容は違う。
「朝っぱらからスんの?」
疲れてないのと続けて、首を傾げて唇を舐めた。
「誘ってるのはお前だろう」
顎を捕らえて唇を食み、舌を絡める。
「疲れマラってヤツ、味あわせてよ」
挑戦的な笑みに、抱き潰してやると耳元で囁いた。
温い湯で逆上せる事はなかったが、浴室に満ちた湯気で少し逆上せたプラツは冷たいシャワーを浴びていた。
ビビッドは人型を保てなくなり、桶に湯を少し入れて湯船に浮かばせ入っていた。
「そういえば、文字はどう?」
未だ勉強しているというように、水がぺちゃんと一度響く。確かに揺れても桶も一緒に揺れてよく解らない。
「ボード、使えそう?」
二度、水面が触手で叩かれる。
「未だ、文字の勉強は飽きてない?」
一度水面が叩かれた。爺がビビッドに教えている今は意外に好評で、厳しくするかと思いきや娯楽なのを理解しているらしく、成り立ちやら何やら飽きさせずに教えている。
ぴちゃぴちゃと何度も水面を叩くので眼を向けた。
触手を水で濡らして壁に這わせる。なんだ、と首を傾げれば触手は離れ、壁に水の跡が出来て。
「ぷ、らつって俺か」
ぺちん、と水音。
急に胸に込み上げるものがあり、思わずビビッドを救い上げて頬を寄せた。
可愛い。愛おしい。読めるだけでもボードは使えるのに、書けるように努力して、それが俺の名とか。
ぐにぐにと触手が頬を押す。触手が頬肉を摘んで引っ張った。
そんなにイヤか。
キスを落としても手を叩かれる。機嫌を損ねたらしい。
桶に戻すと一頻り身体を揺らした。握ったり揉んだりすると、よく震える。
「ビビッド、」
角のような突起を擽って注意を引く。指を退けるように触手を動かして窪んだ瞳が上げた。
「嬉しいよ」
一瞬固まると、ビビッドは桶から湯船に飛び込んだ。
上がってこなくてプラツが焦るのはもう暫く後。